囚人編 第12話 硬石から始まる成り上がりライフ
前世の記憶にある宝石の王様、ダイヤモンド。
しかしそれは研磨技術が進んでからのお話で、それ以前は護符やお守りなどにしか使われていない価値の低いただの硬い石扱いだったらしい。
硬石=ダイヤモンドの可能性は高いと感じた。この世界で何の価値もないクズ石扱いになっているのも、単に磨けないだけだと思う。
労働収容所の生活は厳しいものと考えていたけど、硬石の発見で楽しみができた。
とはいえ――。
「このスープ……まずい」
僕は手に持つスープを口に含んでぼやいた。
夕方に鉄鉱石の分別作業を終えて、住み込み場の建物に移動した。何とかノルマの一輪車五杯をクリアして、銅貨五枚を手にした。
食堂で銅貨五枚と交換できた食事は、硬いパン一個と野菜無しの塩スープ。これが今夜の晩飯。
もう一度スープを飲むが、僅かな野菜の風味以外は塩辛いだけで、出汁もコクも無く全く美味しくない。
硬いパンをスープに浸し、少し柔らかくしてから、パンを食べた。パンは半分だけ食べて、明日の朝食分に『異空間収納』の中に放り込んだ。
昼はともかく、朝と夜にご飯を食べるには最低でも一輪車を十杯は運ばないといけない。
周りを見ればパンを二個、三個食べてる人や野菜入りスープを飲んでいる人がいる。銅貨をたくさん払えば多少はまともな食事ができるみたいだ。
「これに比べたら離れの食事はマシだったか……」
一汁一パンの寂しい食事を終え、寝所に移る。寝所は広々とした広間で、空いているスペースに薄い毛布一枚をかけて寝るみたいだった。
この寝所には男性しか見当たらない。流石に雑魚寝の部屋で女性がいたら、ヤバいよね。僕はまだ十歳だから野獣に目覚めたりはしないけど。
汗臭い寝所の中をトボトボと歩き、寝られそうなスペースを見つけて横になる。敷き布団など無く板間が硬くて背中が痛い。
こんな生活になったのもクソ親父様のせいだ、などと恨みたくもなる。
「はぁ〜」
とため息をついて僕は眠りについた。
◇
労働収容所に来て二週間が過ぎた。中々にしんどい生活だ。
僕の一日の稼ぎは銅貨二十枚ぐらい。一日三食食べて少し銅貨が余るぐらいの生活になっている。
余ったお金は少しずつ貯めている。月に一度だけ、行商人の訪問販売があるとかで、日用品を買ったり、少し美味しい物を買ったりできるという話があったからだ。
硬石も三十個ぐらい集まった。大きい物で5センチメートル程度、小さな物は米粒程度と大小様々なサイズがある。形状は八面体や丸みを帯びた十二面体、いびつな形状など、色々な形がある。
僕は夜な夜な毛布の中で、形の良い大きめの八面体の石を二つ取り出し、ゴシゴシと擦り合わせて磨いている。
ダイヤモンドの硬さはモース硬度で最高値の10である。モース硬度とは引っ掛かき傷の硬度を表す値だ。
つまりダイヤモンドと思われる硬石を磨けるのは硬石だけとなる。
◇
更に二週間が過ぎた。もうしんどい! こんな生活いや! クソ親父ッ、会ったら殺す! いや、もう死んでた。
すさみかけている僕の心。しかし僕には希望の光がある。
分別作業をしている作業場で辺りに人がいないのを確認して、毎夜磨いている硬石を胸の小さなポケットから取り出した。
「綺麗な輝きだ。キラキラ光るこの感じ、間違いなくダイヤモンドだね」
手のひらの上で光を反射して、透明な輝きを放っている。複雑なカットなんてなくても、十分すぎるほど綺麗だ。
透明な宝石と言えば水晶が有名だけど、水晶とダイヤモンドでは屈折率が大きく違い、ダイヤモンドの屈折率は水晶の1.5倍となる。
そのため、ダイヤモンドは取り込んだ光が内部で複雑に屈折するため、水晶にはない輝きを見せてくれる。前世の知識にある綺麗なダイヤモンドカットが出来たなら、もっと輝くはずだ。
「さて、来週には訪問販売があるって言ってたな。それまでに仕上げないとな」
そして週が明けて、訪問販売の日を迎えた。
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