転生した顔面偏差値21の俺は、外見至上主義の騎士団を優しさと剣術で成り上がる ~最強ブサイクの英雄譚~

電波工房

プロローグ

プロローグ1 イケメン

【黒龍の騎士団】の朝は早い。


 この国【エリクシール】を守り、人々に幸せをもたらすために設立されたこの騎士団には、妥協を許さない厳しい訓練スケジュールが敷かれているためだ。


 そして今、俺たちは一つ目の訓練の真っただ中だ。明確なゴールが決まっておらず、教導官がよしと言うまで続けられるこの持久走は中々堪える。


 が、俺は今それ以上に……眠い。


「ふわぁー」


「おはよう、バゴンくん」


 汗一つ浮かべることなく、爽やかな笑顔で俺に話しかけるこの男はシュバルツだ。

 容姿端麗、成績優秀、戦闘能力も申し分ない騎士団のエースである。


 俺は呆けた頭で何とか挨拶を返す。


「ああ……おはよう……」


「ははっ、随分眠そうだね。また第四王女様に付き合わされたのかい?」


「そうなんだよ~。昨日も夜遅くまで話し相手させられてさ~。ほとんど眠れなかったんだよ」


「それだけ彼女は君を気に入ってるってことじゃないか。良い事だよ」


「まあ、そうなんだけどさ……」


「顔はお世辞にも良いとは言えないのに、何が彼女をそんなに惹きつけるのか……。まだまだ君からは学ばせてもらわなければならないね……」


「お、おう」


 彼の遠慮のない言葉に心を少し抉られているところに、後ろから甲高い声の挨拶が聞こえる。


「おはよう諸君!! 今日もいい天気だね!!!!」


 押しつけがましい笑顔、彫りが深く無駄に整いすぎている顔、やかましく輝く金髪、こいつはファルクだ。


 どこぞの王家の血を引く由緒正しい家系の人間であり、民を守るという王子の使命を全うするためにこの騎士団に入ったらしい彼。


 だが誰もその話を信じていない為、皮肉を込めて皆からはプリンスと呼ばれている。しかし本人は満更でもなさそうなので、誰も損してはいない。


「プリンス、お前は相変わらず元気だなあ……」


「もちろんさ!!だって今日も太陽が僕を照らしているからね!!ありがとう太陽!!アイラブサンシャインッ!!!エビバディウェイクアップ!!!」


「プリンスくん、元気なのは良い事だけど、ちょっと声量を調節してほしいな。私語がバレちゃったら……」


 至近距離から放たれる王子とは思えない声量にシュバルツは堪らず彼を注意しようとするが、後の祭り。すぐに前方を走る教導官から怒号が飛んできた。


「おい貴様ら、何を騒いでいる!? なんだ!?物足りないのか!? スピードを上げてほしいということか!?」


「すみませんでした!! 勘弁してくださ……」


「いえ、望むところです!! 目指すは風!!疾風です!! こんなの走ってるうちに入りませんよ!! さあ、みんなで一汗流しましょう!!」


「おい!? お前何言ってんだ!?」


「プリンスくん、君ってやつは……」


 ◆


「はあ……。はあ……。おえ……」


 どのくらい走っただろう。それまでとは比にならない速度に振り回され続けた俺からすっかり時間の概念は失われ、残ったのは小鹿のように震える身体だけだった。


 他の団員も同じような有様で、彼らはとある一点だけを恨めしく見つめていた。


 その視線の先には屍のようになったプリンスの姿。地面に頭から突っ伏しているその様は、言い出しっぺとは思えない。


 すると、パンパンと手を叩く音が聞こえ号令がかかる。


「集合!!」


 俺たちは重い体を引きずりながら、教導官であるのもとへ歩いていく。


 そう、男100人で構成されたこの騎士団を教育しているのは1人の女性である。


 彼女はローランさん。黒龍の騎士団と対になる【白竜の騎士団】の序列一位。つまり100人の女性騎士の頂点に立っている人間だ。


 黒龍の騎士団の序列一位が白竜の騎士団を、白竜の騎士団の序列一位が黒龍の騎士団を教育するという独特の教育制度に基づき、彼女は毎日俺たちをしごいている。


 彼女は腕を組み、俺たちが集まるのを黙って待っていた。


 静かな熱を湛えた青い瞳、通った鼻筋、教導官の証である軍帽が乗った吸い込まれるような銀色の髪。


 先程までの激しい走りを少しも感じさせない凛とした美しい佇まいは、俺たちと同世代の若者と思えないほど完成されたものだ。


「おい貴様、何をジロジロ見ている? 私の顔に何かついているか?」


 ボーっと彼女を眺めていたことがバレたのだろう、俺は怪訝そうな目で問いかけられる。


「いえ……」


 腑抜けた返事を返す俺からすぐに視線を外し、彼女は前に向き直る。


「シュバルツ!!」


「はっ!!」


 呼ばれた彼は一歩前に出て、腰に付けた剣の柄に手をかける。今から宣誓が始まるのだ。


 代表者の言葉を復唱し、団員としての誇りや使命を再確認する宣誓は重要な日課である。


 教導官を除き、この場で最も序列の高い騎士が代表者を務めるため、二位のシュバルツが代表となり宣誓は進行していく。


 ちなみに宣誓の代表者は非常に名誉なことであり、多くの団員はその座に就くため序列を上げようと四苦八苦しているのだが、未だ彼以外の人間が代表を務めたことは無い。


 そして騎士団内の序列がどのように決まるかだが、至極簡単。カッコよさで決まる。


 顔、スタイル、魔法、性格、戦い方等を、国王・姫様・統括軍団長が総合的に判断、そこに民衆の支持等を反映して序列は決定される。


 もちろん人々を守る騎士団のため強さも一応加味されるが、やはり比重の多くはカッコよさ。つまりダサくて強い奴とカッコよくて弱い奴なら圧倒的に後者の方が序列は高くなる。


 ルッキズム万歳、才能主義万歳のこの序列制度は300年前から続く伝統的なものらしい。


 肝心の俺の序列だが、それは秘密だ。まあ三桁とだけ言っておこう。


「全員、抜剣!!」


 彼はそう叫び剣を空に掲げる。俺たちもそれに続き剣を掲げ、無数の刃が光を反射して輝く。


「この剣は敵を穿つ牙!!」


「「「この剣は敵を穿つ牙!!」」」


「我々は民を守る鱗!!」


「「「我々は民を守る鱗!!」」」


「我々は英霊の御霊と共に、この国を照らさん!!」


「「「我々は英霊の御霊と共に、この国を照らさん!!」」」


「揺るがぬ誇りをこの胸に!!」


「「「揺るがぬ誇りをこの胸に!!」」」


「ライ・ゼン・エリクシール!!」


「「「ライ・ゼン・エリクシール!!」」」


 誓いの言葉を最後に、俺たちは剣を収める。


 宣誓前の緩んだ空気は一気に引き締まり、場には活力や生気が充満している。


「貴様ら、やっと気合が入ったようだな!! じゃあ伏せろ!腕立てだ!!」


 ◆


 持久走、宣誓が終わればそこからはフィジカルと技量を鍛えるための訓練が続く。


 そして筋トレ、剣の素振り、組手などの地味ながらも疎かには出来ない種目の数々を済ますと、次は魔法演習。お待ちかねの派手な訓練だ。


 練度や基礎力を高めるため、何もない空間に向かい繰り返し魔法を使用するこの演習は、言わばだ。


「マナの使い過ぎには気を付けるんだぞー! ぶっ倒れても私は助けんからな!」


 訓練で溜まった疲れや鬱憤を晴らせる、と団員の表情は明るくなり、瞳がギラつきだす。……どうやら今日も騒がしくなりそうだ。


「それでは、始め!!」


 誰よりも早く魔法を発動したのは隣のシュバルツだった。


 彼は彼女の号令と共に、剣を空にかざす。するとたちまち耳を劈くような轟音が鳴り響き、彼の剣先に雷が降った。


「はあああっ!!!」


 その勢いのまま、彼は眩く輝く剣身を振り下ろした。


 周囲の団員もそれに追随するように各々の魔法を発動し、たちまち辺りの雰囲気が一変する。演習の始まりだ。


 風が吹き荒れ、冷気が充満し、草花や土の香りが鼻腔をくすぐる。かと思えば美しい旋律が聞こえたり、視界が光に包まれたり、逆に暗闇に遮られたり。


 互いの魔法がひしめき合うこの雰囲気は。前の世界では到底味わうことの出来ないものだ。


「俺もそろそろ始めるとするか」


 暫し場の雰囲気を堪能した俺は、演習に取り掛かるべく鞘から剣を抜き、構えた。


「せいっ!!」


 そしてただ、それを振り下ろした。


「はっ!! しっ!!」


 俺は何度も剣を構えなおし、振り下ろす。


 俺が行っているこの行為は、見ての通り剣の素振りだ。そう俺は……使


 この世界では一割の人間が魔法の才能を持って生まれ、残りの九割が【無才ブランク】で生まれる。


 それだけなら俺が九割側の人間、と言うだけの話なのだが、黒龍の騎士団は国内きっての精鋭部隊。俺以外に無才ブランクの人間などいない上に、団員の大半が雷を操れたり、風を操れたりといったようなスタイリッシュで見栄えの良い魔法を行使できるため、唯一の無才ブランクである俺は非常に肩身が狭い。


「おーおー、相変わらず地味だね〜。バゴっちの演習はさ〜」


 いつも通りの気まずさを感じながら素振りを続ける俺のもとに、軽口を携えた一人の男がやってくる。


 燃えるような真っ赤の髪に張り付いた薄ら笑い、宝石の付いた金色の耳飾り。この男の名はネロだ。


「仕方ないだろ。使えないもんは使えないんだから。てかお前はやんなくていいのかよ」


「いや〜だってさ、疲れんじゃん? 魔法使うの」


 彼を一言で表すなら問題児。演習をサボってわざわざ俺と話しに来ていることからも分かるように、この世の全てを舐めている男だ。


 ……てか嫌味か?俺は魔法使えないんだっつの。


「それは分かんねえけど、真面目にやれよ。ローランさんがサボりとか絶対許さない性質タチなの、お前もよく知ってるだろ?ぶっ飛ばされんぞ」


「ははは、あの人じゃ俺をぶっ飛ばすなんて無理無理。それに魔法演習中なんだぜ、バレるわけないって」


「おいそこ! 何をくっちゃべってる! 無駄口叩いてる暇があったら魔法を使え!!」


 バレた。


(この場で一瞬にして俺たちのことを見抜くとは、やはり彼女は甘くない。こりゃ後で説教だな……)


 俺は落胆しながらネロの方に目をやった。すると、彼はおもむろにポケットから手を出し、手のひらを彼女の方向に向けた。


 そして彼の口角が吊り上がった瞬間、俺は辺りの気温が上がっていることに気付く。


 ……こいつ、まさか!


「おい! ちょっと待…………くっ!!」


 制止が間に合わないと判断した俺は、咄嗟に彼の目の前に躍り出た。


 と同時に、彼の手のひらから等身大の火球が放たれる。


「ちぃッ!!」


 視界を覆い尽くすそれを、剣を振り上げ両断する。


 すると、それはボンという音と共に小さな爆発を起こし消滅した。


「おいおい、何で邪魔すんの~? 俺はアイツの言うとおりに魔法を使っただけだぜ?」


 こいつ、何を考えているんだ。あんなものを彼女に打って悪びれもしないなんて、どうかしてるとしか思えない。


「ふざけるのも大概にしろ。あんな魔法、仲間に向けて良い訳ねえだろ」


「仲間? アイツは白竜の騎士団の人間じゃねえか」


「だから何だ。所属が違おうが、彼女は同じ国の仲間だろ。……今の俺にとっちゃ、お前の方がよっぽど敵だぞ」


 俺は有無を言わさぬ視線で彼を睨みつけた。


「は~あ。そんなマジになんなよ~。はいはい、俺が悪かったですよ~」


 興が削がれたのだろう。彼は頭を掻きながら元の位置に戻っていく。


 余りに傲慢で身勝手。彼のタチの悪さを再確認させられた俺は、服の煤を払いながら深いため息を吐いた。


 ◆


 波乱の魔法演習が終わり、次は実戦的な魔法の訓練が始まると言いたいところだが、生憎今日はお休み。


 そのため今から、午前中の訓練の時間を締めくくる最後の種目が始まる。


 種目名は【】。1時間というシンプルな内容である。

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