猫に小判ギャルにウィジャ盤

暁貴々@『校内三大美女のヒモ』書籍

本編

「まねきねこ公園」編

第1話 まねきねこ公園のオフ会

「おはつー。春夏冬あきないよあきで~す。はるなつふゆって書いて『あきない』ね? よろー」


 インスタのDMで連絡先を交換したギャルと、オフ会をすることになった。

 春休みの朝まだき。東京都は文京区の御茶ノ水にある「まねきねこ公園」は、マイナーな都市伝説スポットの一つである。あだ名よりも変わった本名を巴御前よりも意気揚々と名乗り上げたヨアちゃまは、無類の笑顔で、まだ起ききっていない世界に疑問を投じてきた。


「質問! 自分は主役と思い込んでるヒトのほうが、決まって悪役だったりしない?」


 そう断じるには、少し乱暴だ。

 世の中には、僕みたいに最初から脇役だと弁えているモブもいれば、暗示や名言やスピリチュアルを拠りどころにして、主人公であろうとする人もいるだろう。


「どうだろう、僕は――自分の最大の敵は自分だと思ってるけど」

「じゃさ、親しい間柄に形式ばった挨拶ってひつよーだと思う?」


《おはよう》か《こんばんは》か、どちらにしようか少し迷う時間帯。

 だから僕は何も答えないことにした。


 ちらりとスマホに目を移すと、圏外と表示されている。

 右手で大きな小判をつかんだ「招き猫像」だけが、この不自然さを正しく認識しているみたいだった。たまに神社の祠で鎮座してる三毛猫も、あらぬ方向を見てたりする。


 ヨアちゃまはそれを気にした様子もなく、僕の顔を覗き込んでくる。


「へえ。マーくんって意外とかわいーカオしてんね? ビジュいいじゃん」

「っ。英語にすると《プリティ》か……」

「え、なになに? かわいーだけじゃダメ系?」

「さあ、どうだろう。J-POPはさほど聴かないかな」


 強いていうなら、ヨアソビだって今日がはじめてだ。


「ヨアちゃまは写真通りなんだな。加工を疑った僕を許して欲しい」

「うしし。自分を飾りすぎると本当マジの自分から遠ざかる――なんか、そんな気せん?」

「はぁ。等身大の愛を否定したらにべもないだろ? さっきから……なんだ、心理テストか? 初対面の人間を試すような真似はやめろ」

「アヘペロ☆」


 僕は思わずこめかみを押さえた。


 テヘペロに白眼はミスマッチだと思う。大学ノート丸一冊分のトリセツが必要そうなので、数秒ほど放置してみる――と、春宵一刻――やたらと白いボブカットの髪が、桜吹雪に負けじとかぶいた。


「ツッコミ待ちだっつの、無視すな!」

「この時間の『アヘ顔』はホラーなんだよ! ともすれば、スルー一択だ」

「へたーれ」

「うるさい、シラガール」

「これホワイトのインナーレインボーです~。心に虹を創る季節なんです~」

「姉さん曰く、巷には目押しができないと段々曇って見える虹もあるとか?」


 ヨアちゃまは吹き出す。「一生揃わんやつwww」と。


 へそ出しニットから覗く美腹びふくに、すでに赤7が三つ揃っているような気もするけれど、所詮は未成年のにわか知識。ただ、そこに。眼前の美少女があと数日で『女子高生』になる――という事実を加味すると、にわかに色っぽさが増す気がして、年甲斐もなくすべり台を仰ぎ見た。


 小学生の頃は大きく思えたそれも、今はとても小さく感じる。


「でも、やっぱ。あたしの直感は冴えてたわ」

「自己完結するなよ。僕がおいてけぼりだ」

「追いついてこいって。てか、おいてけぼりって墨田区にあった置いてけ堀が由来なん知ってる?」

「知ってるも何も、意味も知らない言葉を使うやつはいないだろ?」


 この持論、そんなやつもたまにいるのが玉に瑕だ。主に僕とか。


「あたしは都市伝説にハマって知ったクチなんよ。んでさ? それ系インスタにあげてたら、出会い目的のDMが急に増えたわけ。〈肝試し行こ〉とか送られてくんの、ふつーにホラーじゃん? ああいうの、ほんと無理。その点、まだマーくんは信用できるかな、って」


 ふーん。あまり簡単に人を信用しないほうがいいとは思うけど。


「僕が嘘をついてるかもよ」

「あー、それはない。ただのホラ吹きにはが理解できんから」

「ただの、だろ」


 まだ肌寒い春風が吹くほの暗い公園を、パーカーのポッケに手を入れて移動する。

 対照的に熱がりだというヨアちゃまは銅像の前で足を止め、手団扇で首を仰いだ。


「あんさ、聞いていい?」

「お好きに」

「視えるよかやっぱ視えんほうがいいん?」

「いや、が近い。あえて踏み込んだ言い方をするなら、そうだな。僕ならあのウィジャ盤を廃棄する。ヨアちゃまみたいにアイコンにしたりせず」

「リアル特級呪物きたこれ~♡♡」


 目をハートにするような話はしてない。


「それで、おまえは――じゃなく……、キミは」

「イモるなイモるな。呼ばれかたとか別に気にせんし」


 ……いや。Z世代に妙にウケのいいプロのモデル様を、におまえ呼ばわりできるほど、僕の人間レベルは高くない。


 でも、どうせ今日だけのことだ。家に帰れば、赤の他人。


 春休みが終わる頃には、互いに《ああ、そんなこともあったな》くらいに、すっかり忘れてしまうに違いない。いや、正確には忘れるのではなく、日常の雑音に埋もれて、記憶の片隅に追いやられてしまうのだろう。


 なら、キミでもあなたでもなく、おまえでいい。


「それで、ヨアちゃまは僕に何を視てほしいんだ?」

「小学生のときにさ。ここに埋めたんよ」

「ヨアちゃま、おまえ……念のため確認しておくけど、事件性は?」

「ないない」

「なら、あそこのは何を探してるんだ?」


 僕は砂場を指差す。


「……そこに、いるん?」

「いる。何を埋めた? あいつががあるはずだ」


 ヨアちゃまは一瞬、口ごもり、「……その子ね、このへんにちょくちょく来る猫だったの」と切り出す。


「大事そうに、いつも砂場になにか埋めてて。でも砂場だと、あとあと捨てられちゃうかもと思って。だから、あたしの独断で。この像の前に埋め直したの。そしたら……」


「そしたら?」

「……死んだはずの野良猫の鳴き声が聞こえるって、噂が」


(ああ。そういう)


 前言撤回。

 こと彼女に関して、いえば。

 のかもしれない。


「もう大丈夫」

「……え?」

「そこから、ここに。ヨアちゃまの声はよく通るみたいだ。――探し物が見つかってよかったな、


 僕の目が映すのは、だいたいだ。


「じゃ。僕もこのへんで――ぐえっ?!」


 帰路につこうとする否や、フードを掴まれ引き戻された。

 川口市よりもけたたましく咳き込みながら振り返ると、夜明けの後光にもひけをとらない眩しい笑顔がそこにあった。

 

「もちっと余韻にひたろーか。マーくんの本名も、まだ教えてもらってないし」

「……告げずに去るのも余韻なのでは?」

「いいから、はよ」

「はぁ。木天蓼またたび小金こがね

「変な名前」


 どの口が言ってる、どの口が!




 後日。

 春休みが終わり、入学式を迎えた今朝、東京都は千代田区の御茶ノ水にある「都立東雲しののめ高校」にて。


「マーくん? マーくんじゃん!」


 下を向いて廊下を歩く僕を、見知った人物が呼び止めた。陽キャの輪から顔を出したヨアちゃまが、まるで春休みの続きみたいに話しかけてくる。


 だから僕は「おはよう」とだけ返して、その場を後にした。



 〆 都市伝説レポート① まねきねこ公園

 招き猫像の前でイイ感じになったカップルは末永く結ばれる。嘘か誠かはさておき、箸にも棒にも掛からぬ男女には、まったくもって無意味なお噺でそうろう


 諧謔かいぎゃく、諧謔。

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