月光は文化を作る
煉瓦
第1話
亀山はとあるA株式会社で働く社長である。彼の会社の商品は、高性能なAI搭載の人型会話用ロボットR01だ。お値段は5万円で、まったく売れていない。
亀山は社長室にいたロボットに話しかけた。
「もしもし、ロイ。わが社のロボットを売る戦略を考えてくれ。」
ロボットのロイはしばらく考えた後にこう答えた。
「広告が足りないのではないでしょうか。」
「今の時代広告は嫌がられやすいんだ。」
亀山は、まあこんなものかと思った。
ロイは顔を窓に向けた。
「あそこに月があるでしょう。」
「ああ、あるな。」
亀山は満月を見て、頷いた。
「月にQRコードでウェブサイトのURLを書いて宣伝してはいかがでしょうか?」
亀山は目を丸くして、心の中で呟いた。
(そんな事考えもしなかった・・ロイは思ったよりすごいロボットなのかもしれない。)
現在月は、人口約100人。
建物は少なく、QRコードを書き込むには今しかないと思った。
亀山は月QR化計画を打ち出した。
しかしこの前代未聞の計画は、簡単ではなかった。
地球から見える月の角度を計算したり、サイズはどれくらいがいいかなど議論が行う必要があった。
亀山は専門家を招き、意見を求めたが口を濁した。
専門家の口ぶりが気になった亀山は、どういうことか聞いてみた。
「・・技術的な問題は置いといても、文化的問題が残っていますな。」
「文化的な問題?」
専門家は言った。
「日本で言う月のうさぎ。月のうさぎの隣にQRコードがつくのは、文化を壊してると思いませんか?」
「はぁ・・お月見する人が困るとでも・・?」
亀山は理解ができないというように困惑した表情を見せた。
「お正月にも年賀状を出す人が減ったように、お月見する人も減るかもしれませんね。」
専門家は真剣だった。
しかし亀山も社運がかかっているため真剣だった。
「私たちは新しい技術で新しい文化を作ろうとしてるのです。」
「新しい文化ですか・・?」
専門家はきょとんとした。そして考えた後、こう告げた。
「あなたの考えは分かりました。しかし、あなたに賛同できません。」
亀山はユネスコに世界遺産を作るから協力してほしいと依頼した。
すると、保守派からも月のうさぎを世界遺産にしたいと申し出があった。
同じ場所を別々の世界遺産として登録したいという話ははじめてでユネスコも困り果てた。
亀山は、ロイにもう一度意見を聞こうと思った。
しかしロイは「文化」という意味を理解できなかった。
辞書の文は読み上げることができても、どうしてこの計画に反対の者がいるか説明を理解できなかった。
亀山は「文化」の意味が分かるように新しいロボットR02を作った。
R02はロズと名付けられた。
ロイもロズも、「文化」を理解できなかったが、計算技術は負けなかった。
月QR化計画はロイとロズで進行させた。
結果的に、会社は瞬く間に有名になった。
亀山としては、月QR化計画よりも「文化」を理解させるために
しかし、亀山も定義していくうちに混乱していった。
修正と理解確認のテストの繰り返しで疲れていた。
ユネスコからは判断できないため、申し出は破棄するとされた。
まあ結局のところ、後ろ盾がなくなっただけで、行動を起こそうと思えばQRコードを掘る事ができた。
逆に月のうさぎを守ることは難しい。
月QR化計画はそのまま実行された。
計画を発案してから、10年経っていた。
ロボットたちは「文化」の意味は未だ理解していない。
亀山は病院で寝ていた。
「もしもし、ロイ。月QR化計画はどうなった?」
「QRコードを掘り始めました。」
「そうか。・・ロボットが文化を理解せずに、新しい文化を作るのは不安だったが、人類も文化を初めて作った時文化という言葉すらなかったはずなんだ。だから、ロボットであるロイとロゼに任せるよ。」
亀山はそう言い残してこの世を去った。
QRコードは完成した。
ロボットが初めて作った文化として記録が残された。ロイとロゼは、今も色々な場所で働いている。
そのうちに、亀山社長の努力は実を結ぶ。そのうちに巷では、亀は万年、ロボは億年ともいわれるようになった。
ロイとロゼはそれを聞いて文化を少しだけ理解できたという。
月光は文化を作る 煉瓦 @renga_suugaku
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