底辺猫耳配信者のミミ、信者に持ち上げられすぎて気付いたらダンジョンの英雄になってました!
津城しおり
第1話 ミミの日常
大樹の葉が、夜風に揺れて囁くような音を立てる。
その大樹の幹に寄り添うように建てられた小さな家で、
「みんにゃ~!今日も来てくれてありがとにゃんっ!
今日の配信はここまでっ!またねー!」
視聴者は二十七人。
彼女はいつものように画面をスクショしてから、そっと配信終了ボタンを押す。
毎日欠かさずやるルーティーンだ。
“フォロワー百万人になるまで、全部の配信の瞬間を残したい”
――その野心を胸にしまいながら。
ミミミリスは、自分はマメな獣人だと本気で思っている。
「ふぅ~……今日も頑張ったぁ」
彼女は配信が大好きだ。
画面の向こうにいる誰かが、彼女の存在を肯定してくれるから。
ときには、家族以上に大事だとすら思ってしまうほどに。
「さてと、行こっかな」
窓を開けて、ひらりと外へ飛び出す。
足裏が土を踏む感触は柔らかくて、いつ来ても落ち着く。
都心の学校にいた頃――たった二年前だが――
寮の窓から道路に飛び降りて移動するのは日常だった。
怒られたこともあるが、それでもやめられなかった。
それはもう、彼女の“本能”みたいなものだから。
夜の空気を胸いっぱいに吸い込み、
彼女はいつもの夜の商店街へ向かう。
このラララットリ村は獣族の村だ。
村人は皆夜行性――つまり、
“真夜中は真昼間”というちょっと変わった生活リズムで動いている。
「ますたぁぁあああ! 今日も“あれ”お願いっ!
S級ダンジョンね!」
八百屋兼クエスト受付所で、元気よく声を張る。
もちろん本気でS級ダンジョンを頼んでいるわけではなく、
マスターとのお約束の冗談だ。
「おっ、今日も強いのが来たなぁ~。
はいよ、瓶は割るんじゃないぞ!」
「はーいっ!」
紙袋には果物と、小瓶に詰まった練乳。
それを大事に抱えて、ミミミリスは大樹のもとへ戻っていく。
登り慣れた幹をするすると登り、てっぺんに腰を下ろす。
夜空は澄んでいて、星が村の灯りよりも明るい。
「ん~!星みながら食べるの最高~!」
果物を頬張り、練乳をちょんとつけ、幸せに目を細める。
食べ終わると、家へ戻り、配信の切り抜き動画を編集。
ほかの配信者の配信も見て勉強する。
やがて空が白みはじめると、彼女は朝食をとり、風呂に入り、
朝の小鳥のさえずりを子守歌にして眠りにつく。
――これが、月冴ルリことミミミリス・フェレスガットの、
とても静かで、しかし確かに輝く“日常”だった。
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