青褐の月
@Manny17
近藤長次郎
その日は朝から雨が降っていた。
(長州の方らぁはまだこんかい《こない》
のう…あああ、この雨じゃ出航は延期か?)
長次郎は焦燥感がにじみ出る背中を丸め傘もささずにその場でしばらく立っていた
(しかし、今日行かんかったらわしはどうすればえいのじゃ?留学はどうなるがぜよ)
(わしの夢は…これで終わりかえ?)
無常にも雨は止む気配はなく、長次郎は亀山社中に戻る事にした。
坂本龍馬が設立した亀山社中の
次のようである。
一,無断で勝手に去るべからず」。
一,「私欲をもって他を害すべからず」。
一,「金銀の出入りは細大漏らさず帳簿に記し、勝手に金銭を動かすべからず。
・・・およそ事大小となく相謀りてこれを行うべきは、社中の盟約に背く者は、割腹してその罪を謝する・・・
近藤長次郎は、『金銀の出入りは細大漏らさず帳簿に記し勝手に金銭を動かすべからず』と、言う私利私欲の為に反したとされた。
長次郎が帰るや否や沢村惣之丞等の隊員に厳しく詰問を受け……
「何故かじぁ、なぜ皆んなを裏切るような真似をしたがじゃ」
「龍馬が知ったら悲しむと思わなかったか」と、
一人の隊員が長次郎に言った
『まぁまぁ皆そこまで!!』
『確かに今はわしらぁと同じ様に大小(刀)をさしちゅうけんど長次郎さんは元々饅頭屋の倅じゃないかえ?』
『ほいたら龍さんがいない中早急に罰するよりも龍さんの帰りを待ってからでも良いじゃろう』
『のう長次郎、おまん自分で考えたらえい』
長次郎は饅頭屋ではない!と叫びたい気持ちでいた。
町人が、苗字帯刀を許されるまでどれだけ肉を削り血を流したか
土佐の厳しい身分制度を知らない者が何を言うか…と…
言葉こそ発しなかったが両手の拳を強く握って考えた。
そしてまた一人が涙を浮かべて言った
『長次郎、おまん龍さんのいない時に…
龍さんならきっと何か良い方法を言うてくれたかもしれんけど皆で決めた役規はどうなる?
町人なら…饅頭屋なら…関係ないか?その2本の脇差しは飾りか?のう長次郎』隊員は肩を力強く握り悔しそうに啜り泣いていたその姿を見て、長次郎は初めて口を開いた。
「すんません、一人にしてつかぁさい」
絶望、失望、後悔、どんな感情か良く分からなくなっていった
「そうか、分かったそれなら一人で考えたらいい」沢村惣之丞が言うと、おのおの部屋に戻った。
長次郎はクラッと目の前が真っ暗になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます