レムレアブル宮殿の殺人

中島清一郎

プロローグ

両親が経営している探偵事務所をそのまま引き継いだ形となっているが、所長が息子のラルクになってからは以前より依頼人の数が減っている。あの頃の目の回るような忙しい日々はどこへ行ったのか。毎日依頼が一件来るかどうかというところまで経営が厳しくなっており、30代後半になって転職も視野に入れようと秘書の【ミラン・シェリー】に相談していた。

「所長〜、もう11時ですよー!いい加減起きてくださーい」

ボサボサの頭をかきむしりながら階段をゆっくり降りてきたのは"ラルク探偵事務所"所長

【ラルク・シ・カーズ】である。

「どうせ今日も依頼なんか来やしないよ。早起きするだけ無駄だよ?早起きは三文の徳とか言うけど、うちの事務所はは三文どころじゃきかないからなぁ」

「そう言わずにとりあえず座ってください」ラルクを強引にソファに座らせたシェリーは早速本題に入った。

「依頼人が今日来られてるんです」

ラルクは眠そうな目を見開き、シェリーの顔を凝視した。

「本当か…!?どんな金持ちだった?紳士風のスーツにハット被った爺さんか?それとも革のコートに身を包んだ老婦か?何でもいいから直ぐ会わせろ!」

「まぁまぁ落ち着いてください」

そうラルクを宥めたシェリーは依頼人を呼んだ。

「こんにちは…」

依頼人の風貌は決して良いものとは言えなかった。どこかの城の使用人のように見えるが、制服の至る所が汚れており、破れている箇所もある。ラルクは残念そうな顔をしながら依頼人を強引に帰らせようとする。

「申し訳ありませんが、私ただいま風邪を引いておりまして万全の体調ではないのでまたの機会ということで、では」

「待ってください!」

玄関まで追いやられ、ドアを閉めかけられた使用人がラルクに向かってそう強く叫んだ。

「1000万円払います。それでどうですか…?」

ギラリと強い視線でラルクを見た使用人は名刺を突き出した。

「私は、レムレアブル宮殿1級使用人の【ハウス・ルージュ】と申します!どうか、お願いいたします」

ドアを閉めかけたラルクが後ろに立っているシェリーに向かってニヤリとした顔を見せた。シェリーのため息混じりの

「わかったわ…」

という一言を聞くと、ラルクは向き直し

「その依頼、お引き受けいたしましょう」

と依頼人にそう告げた。

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