第16話 自称聖女の暴走と、ユリウスの極秘調査
レオンハルト公爵家の静かな撤退と経済制裁により、王宮内の空気は日に日に重くなっていた。特に王妃イゾルデの派閥は、資金繰りの悪化により、貴族間の信頼を失いつつあった。
この危機的な状況において、自称聖女リーゼは、「リーゼは真の聖女であり、国を救う光だ」というルドヴィクの言葉を真に受け、傲慢さを増長させていた。
「シルヴィア様のような冷たい女が去ったのですもの!この国は、わたくしの優しさで満たされるべきですわ!」
リーゼは、自分の侍女たちに対し、以前よりもさらに横暴な態度を取り始めていた。経済的な権力が弱まった王妃派の焦燥が、そのままリーゼのヒステリックな行動となって表れていた。彼女の私室では、連日、侍女たちの怯える声と、物が砕ける音が響いていた。
そして、ついにリーゼは、王宮内での権威を誇示するという、決定的な愚行に出る。
リーゼは、王宮内の公的な慈善事業を、ルドヴィクの許可を得て引き継いだ。これは、本来、公爵令嬢であるシルヴィアが、完璧な統率力をもって運営していた事業であった。
リーゼは、慈善事業の運営委員会に出席するなり、シルヴィアが築き上げた「効率的で、貴族と平民の双方に配慮したシステム」を一瞬にして否定した。
「わたくしの慈悲の心があれば、このような冷たい計算など必要ありませんわ!全て、愛と純粋な気持ちで運営すべきです!」
リーゼは、運営資金を、自分の趣味に合う華美な装飾品の購入に充て、平民への支援物資の配給を大幅に削減した。
この「愛と純粋な気持ち」と称された行動は、すぐに運営の破綻を招いた。物資は滞り、運営委員会の貴族たちは困惑し、平民の不満は王宮の壁を越えて広がり始めた。
一方、ユリウス第二王子は、この混乱を静かに見つめながら、極秘裏に進めていた調査を、ついに実行に移した。
彼は、腹心の部下を通して、リーゼの侍女の中でも特にリーゼの横暴によって傷つけられ、恐怖に支配されている数名の侍女に接触した。
侍女たちは、「公爵令嬢の回し者だと見なして、王妃様に処分させる」というリーゼの冷酷な脅しにより、口を閉ざすことを強制されていた。彼女たちにとって、ユリウス王子の接触は、希望であると同時に、新たな恐怖でもあった。
ユリウスの部下は、侍女たちに対し、「証言を強要することはしない。しかし、真実を記録することは、貴女たちの名誉と、王国の正義を守ることに繋がる」と、慎重かつ誠実に語りかけた。
そして、最も深く傷ついていた一人の侍女が、「あの夜会の真実」を語り始めた。
「王の生誕祭での転倒は……リーゼ様ご自身が、シルヴィア様を貶めるために、自ら仕組んだものです。そして、あのドレスの色、茶葉の件も……全て、リーゼ様が……」
侍女の震える証言は、自称聖女リーゼの悪辣な本性と、ルドヴィク王太子の愚かさが招いた、すべての理不尽な出来事の裏側を、静かに、しかし決定的な証拠として記録していくのであった。
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