第十一話『青年と朝』

 光が差し込む──


 朝だ。

瞼を開けると、藁の寝床の匂いと

きしむ木枠の感触が、ゆっくりと現実を引き戻してきた。


 体を起こして伸びをする。

一時は死にかけたのに、思ったより動ける。

腹の奥に、まだ少しだけ熱が残っているけど、手足はちゃんと力が入る。


 部屋の隅に置いてあった壺から、水をすくって顔を洗う。

冷たさが肌に触れた瞬間、目が覚めていく。


 ……うん、いける。今日はちゃんと歩ける。


 階段を降りると、パンと湯気の立つスープがテーブルに並んでいた。

ふわっと焼きたてのパンの匂いがして、それだけで幸せになる。


「おや、起きたね。ほら、食べな」

 女将さんの声はいつも通りで、それがすごく安心した。


 席に着くと、女将さんが中和草ちゅうわそうをそっとテーブルに置く。


「それ、持ってきな。今度ヘビーローズに会ったら口に含んどくんだよ!」


「えっ……いいんですか? そんな……!」

 びっくりして目を丸くした。

僕のポーチなんて薬草が数枚入ってるくらいだから。本当にありがたい。

胸の内側がじんわり温かくなる。


 朝食をはぐはぐと平らげて、礼を告げて宿を出た。

 朝の空気は少し冷たかったけど、昨日みたいなふわふわ感はそこまで無い。



 あ、そうだ──

 短剣の鞘、まだ無かった。



 武器屋に寄る。

 おじさんが「ほう……」と小さく唸り、柄頭の宝石をしばらく眺める。

目の奥がちょっとだけ光った。

それから奥に引っ込み、レザーの鞘を手際よく作ってくれた。


 僕はそれを受け取り、ベルトにぱちんと留める。

たったそれだけなのに、すごく誇らしい気分になる。

 かっこいい……!

胸の奥で、子供のように心が躍る瞬間を味わった。


 スティレットはポーチにしまう。

こいつも大事な相棒だ。

今はちょっと、おやすみなだけ。



 そういえば──花の大蛇、

ヘビーローズがいたあの階層。

ちゃんと見て回れてない。


 思い返すと、あれはどう見ても未踏破のダンジョンだった。

他の人が荒らした形跡もなかったし……

ってことは……お宝、まだいっぱい残ってるかも?


 胸の奥が一気にざわっと熱くなる。

この前の死にかけた感覚なんて、霧の中に埋もれてしまったかのようだった。


 ワクワクが勝った。

 体が前に傾く。

 ちょっとだけ……ほんの、様子見するだけなら。

 ……いいよね?


 気がつけば僕は町の門をくぐっていた。

朝の空気が肌にひやりと触れる。


 よし。行こう。

 ヘビーローズのダンジョンへ──

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