第九話『青年と町』
夕方の空は、金色と薄紫が混ざって、綺麗なのかどうかもよく分からない。
ただ……その“ぼやけた感じ”が今の自分に似ていて、少しだけ胸がざわついた。
川で水を飲んでから、体は前より動くようになった。
でも……まだ、ふわふわしたままだ。
地面を歩いているはずなのに、足の裏の感触が遠い。
森の中の風も、昼より冷たくて、肌に触れるたび体がびくっと反応した。
生きてるのに、“生きてる”って実感が薄い。
息をするたび胸の奥がまだ熱くて……どこか遠くの世界を歩いてるようだった。
そういえば──と
腰の後ろのポーチに手を伸ばす。
指先が薬草に触れる。
「あった……」
薬草を一枚、そっと口に放り込む。
噛んだ瞬間に口の奥へ冷たい風がすべり込むような清涼感だけが広がって、
そのわずかな刺激が、ぼやけた意識をかすかに引き戻してくれた。
とりあえず町に戻ろう。
宿屋で休めば、もうちょっとまともになれる……はず。
そうそう思って一歩一歩進むけど、足がときどき勝手によろける。
石につまずくたびに、心臓が跳ねて、変な汗が出る。
森が途切れ、見慣れた木の門が視界に入った瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなった。
町の松明の火が美しく輝いている。
夕飯の匂いがどこかの家から流れてくる。
煙突の煙が空にほどけて消えていく。
当たり前の景色なのに、それだけで、何か救われた気がした。
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