第七話『青年と現実』

 「か……っは……っ……?!」


 胸の奥が焼けつくみたいで、その痛みに引きずられるように意識が浮かんだ。

息が……吸えない。喉がひりついて、砂を詰められたみたいだ。


 あれ……僕……たしか…………?


 視界がぼやけて、光が輪郭だけ震えて見える。頭も体もふわふわして、どのくらい時間がたったのかもわからない。


 でも──


 ……水。

 水が飲みたい……。


 手を動かそうとしても、指が土をずるっと滑るだけで、全然力が入らない。

なんとか身体を起こして棘が掠った太腿に触れる。


 ……傷が、ない……?


 黒く跡は残ってるのに、ちゃんと塞がってる。

本当ならもっと酷くなってるはずなのに。


「ど、うして……?」


 考えようとすると頭がかすむ。

それより、喉が痛い。胸の奥がぎゅうって締めつけられる。


 ……水。

 ほんの少しでいいから飲まないと。


 ふらふらしながら周りを見る。

 枯れた蔓が触れただけで崩れて、白い蛇の……あれの成れの果てが転がっていた。


 見覚えのある景色なのに、色が全部抜け落ちたみたいだった。


 もう動かない……

 大丈夫……だよね……?


 壁に手をついて部屋を出る。

 通路は夜みたいに暗くて、しん、としてる。

足音すら響かなくて、まるで世界に僕しかいないみたいだ。


 それでも……行かなきゃ。


 外に……出れば……

 川が、あったような気が、する……。


 どれくらい歩いたのかわからない。

木漏れ日が差す場所に出ても、静かで……生き物の気配がない。


 ただ光が揺れてて、でも心は全然落ち着かなくて。


 息をするだけで胸が痛い。

 足の震えが止まらない。


「……みず……」


 そのとき。

 外のほうから、かすかに“ざぁ……”って音が聞こえた気がした。


 なんで生きてるのかなんて、今はどうでもいい。

 ただ苦しくて、喉が乾いて、

 その音だけが……僕を引っ張ってくれてる気がした。

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