第五話『青年と毒』

 地面に倒れたはずなのに、その音が水の底みたいに遠く聞こえる。

太腿の傷がじくりと熱を帯び、そこからじんわり広がっていく。


「……っ、は……っ……?」


 心臓が……変だ。

速いのか遅いのか、リズムがぐちゃぐちゃで、自分のじゃないみたいだ。

 呼吸もうまくできない。胸がひゅっと縮んで、空気がはいらない。

頭がぼうっとして、視界の輪郭が溶ける。


「こ、れ……どく……?」


 耳がきん、と鳴って──

そのあと、音がぜんぶ、すうっと吸いこまれるみたいに消えた。

鼓動の音すら、きこえない。


 マズい。

わかってるのに、焦りが……おそくなる。

でも、どこかで “ああ、やっぱり” って声がする。

あんな相手に戦って、無事なわけない。


 でも、勝ったんだ。

たしかに……かったのに。


 花も、蔓も動かない。

しろい大蛇は、くびを落とされて……ただの肉だ。


 勝ったのに……ここで死ぬなんて……いやだ。


 さむい……。

いや……寒いって、かんじてるだけか。

ゆびの先が、あるのかどうか……わかんない。


 ……動かない。

 いや、もう……うごかせない。


「……ま……だ……」


 死にたく、ない。

まだ……おわりたくない。

そんなの、ぜったい……いやだ。


 もっと、強くなりたかった。

ぼう険も……これからで。

まよって、こわがって、それでも──

こんなおわり……みとめるわけ……ない。


 たちあがりたい……。

うで……うごけ……。

……だめ……。

ほんとうに……ひとつも……うごかない。

ぼくのからだじゃ……ないみたいだ。


 し……かいが……ぼやけて……

ひかりが……にじんで……

いろが……ながれて……

いしきが……やみに……

ひきず……ら……れ……て……


 あ……

 だれか……

 だれ……で……も……いい……

 たす──

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