無能と蔑まれていたおっさん鍛冶師、実は神話級の魔道具を量産していた~気ままに武器作りを楽しんでいただけなのに、昔武器をあげた美少女達が大成してたんだが~

おまにき

第1章

第1話 おっさん鍛冶師とクレーマー

「よし、完成だ」


 薄暗さを感じさせる工房にて、俺はできあがった剣を掲げながら独りごちる。


 俺の名はニコラス・オバンドー。

 イーソ村という田舎で鍛冶師をやっている40歳のおっさんだ。


 元々俺は日本で暮らす小畑邦彦おばたくにひこという会社員だった。

 だがブラック企業で酷使された果てに過労死。

 その後神様の力で異世界に転生し、0歳から第二の人生をスタートさせた。


 そんな俺が第二の人生ではまったのが『武器作り』だった。


 武器というのは作り方次第で様々な姿に変化する。

 完成という名のゴールに辿り着いたとき、毎回異なる景色が見られる。

 これが武器作りにはまった一番の理由だった。


 前世でも俺は物作りが好きだったからな。DIYもやっていたくらいだし。

 それを踏まえると武器作りにはまったのは自然な流れだったのかもしれない。


 やがて大人になった俺は鍛冶師になることを決意。

 同時に鍛冶屋も開店し、自らが作った剣や斧などの武器を販売する生活を始めたのだった。


「おい、おっさん! さっさと出てこい!」


 ふと工房の外から若い男の怒鳴る声が響いてきた。

 工房にいる間は鍛冶屋の入口の鍵を閉めている。そのため鍛冶屋に用がある場合は工房の扉をノックするようにという貼り紙をしていた。

 となると、怒鳴っているやつは鍛冶屋に来た客か?


「早くそのつら見せろ! じゃねぇとぶっ飛ばすぞ!」


 ドンドンと工房の扉が乱暴に叩かれる。

 面倒な客が来てしまったみたいだな。


 気は進まないものの俺は工房の入口へ向かい扉を開ける。


「どちらさまで? って、昨日の冒険者じゃないか」


 若い男は昨日俺の鍛冶屋で剣を買っていった冒険者だった。

 彼はまるで親の仇にでも会ったかのような顔で俺を睨んでいる。


「来やがったな、この詐欺師めっ!」

「詐欺師だと? 冗談はよしておくれ」

「黙れ! てめぇが売った大剣のせいで、こっちはひどい目に遭ったんだよ!」


 ギャアギャアと喚き散らしながら、若い男は不満をぶつけてくる。


 俺の鍛冶師歴は20年。職人としてはベテランの域に入ると言える。

 だがこれだけ長くやっていても、鍛冶師として芽が出ることはなかった。


 自分なりに試行錯誤はしてきた。

 日々武器作りのイロハを研究し、鍛冶師の仕事に本気で向き合ってきた。


 しかしいざ鍛冶屋に商品として出しても、売れる武器の数は微々たるもの。

『こんなしょぼい武器しか売ってねぇのか!?』

『とっとと潰れちまえ!』

 そんなふうに客から罵声を浴びせられた経験は数えきれない程ある。


 けど鍛冶師を辞めようと思ったことは一度もない。

 武器を作っているだけで俺は満たされていたから。


 最初の人生は過労死という形で幕を閉じた。

 その経験があったからこそ、第二の人生では好きなことをやりながら穏やかに暮らそうと決めていた。


 才能がなかろうが客に罵られようが関係ない。

 これからも俺は趣味の武器作りを楽しみながら過ごしていくつもりだ。


「ひとまず、どういった問題があったのか聞かせてもらえるかね?」


 俺が尋ねると、若い男は背負っていた大剣を引き抜き床に投げ捨てた。


「昨日買ったこの大剣、全然攻撃が当てられなくて使いづれぇんだよ! そのせいでクエストに失敗しちまっただろうが! どう責任取ってくれんだ! ああん!?」


 どうやら若い男は俺に全ての責任があると言いたいらしい。

 けど、こいつの主張には穴がある。


「お客さんの言い分はわかった。けど大剣に問題があると決める付けるのは早いと思うぞ?」

「何だと?」

「お客さん、大剣を買う前に試し切りをしただろ? そのとき俺はお客さんが剣を振っているのではなく、ことに気付いたんだ」


 大剣はサイズが大きく重さもある。

 そのため扱える人間が限られてくるのだ。


 この男、細身な体型で大剣を扱うのには向いていないタイプなんだよな。

 試し切りのときも明らかに剣を振りづらそうにしてたし。

 攻撃が当てられなかったのも、大剣が重くて扱いきれなかったのが理由だと思う。


「だから俺はお客さんにショートソードやロングソードを薦めた。大剣よりも長さや重さが抑えられている分、扱いやすいと思ってな。けれどもお客さんは俺の話を聞かず、大剣をくれとゴリ押ししたじゃないか」

「はっ! てめぇみたいなおっさんのアドバイスなんぞ信用できるか! 俺が自分には大剣が合うと思ったら、それが正解なんだよ!」


 合わない武器を使って怪我でもしたら大変だ。

 そう思って親切心でアドバイスしてあげたんだが、無視されるどころか次の日に文句を言われるとは。

 理不尽すぎる……。


「とにかく、てめぇのせいでクエストに失敗し、損害を被ったのは事実だ! わかったら昨日払った金返しやがれ!」

「待ってくれ。こっちも商売でやってんだ。不良品だという確たる証拠もないのに、返金なんてできっこないぞ」

「うるせぇ! とっとと代金返せやコラァ!」


 若い男は俺の胸倉を掴み恫喝してくる。

 もはやクレーマー通り越してカツアゲだな……。


 さて、この男はどうしてやろうか。

 言っても聞かない以上、ここは騎士を呼ぶのが一番だ。

 

 とはいえ、最寄りの詰め所まではいささか距離がある。

 となれば他の村人に助けを求め、騎士を呼んできてもらうのがよさそうだ。


 騎士が来るまで俺はカツアゲ野郎の相手をし続ける必要があるが、時間稼ぎくらいはできるだろ。

 そうと決まれば、まずは俺の胸倉を掴んでいるカツアゲ野郎を振り解くところからだな。じゃないと村人に助けを求めることすらできん。 


「そこまでだっ!」


 ふと若い女性の凛とした声が店内に響き渡った。

 胸倉を掴まれたままの体勢で俺は声が聞こえた店の入口付近を見る。

 そこには甲冑を身にまとった見目麗しい女性の騎士が立っていた。


「きっ、騎士だと!? なんでこんな人気ひとけのない田舎に……!?」

「私のが打った剣の価値もわからぬ不届き者め。今すぐその汚い手を離せ!」


 なぜか俺のことをと呼びつつ、女性の騎士は激しい剣幕で言い放つ。


 ハーフアップにした金色のロングヘアー。

 瞳の色は清涼感のあるマリンブルーで、肌は透き通るように白い。


 右手に持つのはレイピア。

 細く鋭いそれを、彼女は軸をぶらすことなく若い男に突き付けている。


「待ってくれ! 俺は悪くねぇ! こいつが使えねぇ大剣を売ったのが悪いんだ!」

「まだ罪を擦り付けるか。途中から話を聞かせてもらったが、どう考えても責任は貴様にあるだろう。扱えもしない大剣を強引に買った挙句、クエストに失敗したら店主のせいにするとは。貴様は冒険者、いや人として失格だ!」


 うわぁ、直球で言ったぞこの子……。

 俺ですら手心を加えた言い方にしたのに、容赦ないなぁ。


「こっ、この! 騎士だからって調子に乗るんじゃねぇぞ!」

「文句があるなら掛かってくるがいい。剣で私に勝てる自信があるならな……!」


 女性の騎士が鬼のような眼光で若い男を睨みつける。

 あまりの気迫に、若い男は情けなく「ひぃ……!」という悲鳴を漏らす。


「おっ、覚えてやがれ!」


 結局若い男は女性の騎士の圧に耐え切れず逃亡した。

 まあ、あんな怖い顔で威圧されたら普通の人はビビるよな。


「ありがとな、助けてくれて」

「いえいえ。が困っていたら、助けるのは当たり前ですよ」


 レイピアを納刀した女性の騎士は柔らかい表情を向けて駆け寄ってくる。

 先ほどのような鬼気迫る様子はきれいさっぱり消え失せていた。


 というかさっきからって呼んでるけど、俺のこと知ってるのか?

 俺の知り合いにいたっけか?

 女性で金髪ロングヘアーの騎士って?


「んっ? まさか──!」


 いや、いる。

 同じような容姿で、騎士になるのが夢だった子が一人。


「ひょっとして、フレデリカなのか……?」

「……! ようやく気付いてくれましたね、ニコラス先生!」


 女性の騎士──改めフレデリカは満面の笑みを浮かべて答える。


 フルネームはフレデリカ・ノイシュテッター。

 かつて彼女は、ここイーソ村に住んでいたのだ。

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