【決闘】

「じゃけえ、【決闘】やろうや。どういうもんかは知っとるのぉ?」


「まぁ、大体は」


【決闘】ってのは、プレイヤー同士、またはプレイヤーとペット化した魔物が模擬戦をできるシステムだ。


 PvPとは違い、【決闘】は敗北しても死ぬことはない。

 3秒間の気絶モーションがつくだけだ。


 あくまでフレンド同士で気軽に戦って遊びたいときに使うって感じのモード。


「でも今、武器を持ってなくてね。悪いが貸してくれないか」


「おお、ええぞ。なんたってウチは【刀匠】やからのぉ!」


 クロススパイクは手近の枝から【ただの木の弓 Lv.1】、石から【ただの石の剣 Lv.1】を生成し、僕に渡した。


 どちらも低レベルの武器だが、問題ない。

 

 【決闘】では、レベル差のあるプレイヤー間でも平等な試合ができるよう、装備を含めた各種ステータスが初期値がリセットされるのだ。


 剣を腰にさす。

 弓を握る。

 念のため、弦の張りの強さを確認する。


 そんな感じでいそいそと準備していると、クロススパイクがニヤけた視線を送っているのに気づいた。


 なにがおかしいんだ?

 と思うけど、同時に違和感を感じる。


 そういえば彼女、武器を装備した様子がない。


 僕の心を読んだかのように、クロススパイクはギザ歯を開く。


「キシシ! ウチは素手でやらしてもらうけェ! それでちょうどええじゃろうからな」


 自らハンディを宣言して、そう不敵に笑った。


「……正気か?僕もそんなに弱くないと思うけど」


「ま、やってからのお楽しみじゃ。じゃあやる前に、まず距離をとるわ。30mくらいがええのう……こんくらいか。では」


「……始めよう」



【クロスパイクから決闘のお誘いが来ています。受けますか?(YES / NO) 】


 YESを押した瞬間、僕とクロススパイクを半透明のドームが取り囲んだ。


 決闘中、このドームから出ることはできない。

 逃走不可、ってわけだ。


【決闘が成立しました。開始まで3秒前】


【2秒前】


【1秒前】


【――開始】


 開始の合図と同時に、僕は【木の弓】を引き絞る。

 この中距離の状況だと、飛び道具が絶対に有利だと思ったからだ。


 弓を手にするのは、実は初めて。

 だがダンジョン時代、幾人もの弓使いを見てきた。

 

 学習ラーニングは済んでいる。


「弓、一回触ってみたかったんだよなァ!テンション上がんなぁ!!!」


 無駄のない所作で狙いを定めて、発射。


 弦がうなる。矢が一直線に飛翔する。

 

 その進行方向、ド真ん中にクロススパイクが立っている。


 クロススパイクは――逃げない。

 代わりに、素早く手を構えた。


 人差し指、そして中指を顎に当て。


はい、チーズSay Cheese!」


 逆ピース。

 喉笛に迫った矢を、二本の指にて挟み込んだ。


 矢の軌跡を正確に予測しないとできない芸当だ。


「動体視力バケもんかよ……」


 思わずぼやきながら、僕は駆ける。

 駆けながら、二の矢、三の矢を射る。


「キシシ。なんぼ矢ァ放ってもウチには効かんよ」


 クロススパイクは、かっぴらいたギザ歯から笑い声を漏らしながら、追加の矢も手でつかみ取ってしまう。

 ――その瞬間を見届け、僕は一気に加速した。


「舐めんなァ!!戦闘中に片手塞いでんじゃねェ!!!」


 もう一つの武器、【石の剣】を抜き放つ。

 そいつを握りしめ、弾丸の速度でクロススパイクの胸に飛び込む。


「あらよっと」


 その動きもクロススパイクは見切っていた。

 修道服のすそがバササッとはためく。生足がとんでもない速度で飛び出し、【石の剣】を蹴り上げた。

 剣はクルクル回転しながら、空高くに舞い上がる。


「今度はウチの番じゃあ!!」


 クロススパイクの右腕が上がる。

 パンチの予備動作だ。


 さて、どう防ぐ?

 

 剣は失った。

 

 バックステップで逃れるか。徒手空拳としゅくうけんの空手にてさばききるか。

 

 否。攻めの手で行こう。


 だってまだ、弓がある。

 

 最小限の動きで、矢をつがえる。

 同時に肩を引く。パンチは紙一重で脇腹を通り過ぎた。


 空ぶったことにより、クロススパイクの腕は一瞬、僕の眼前をくらりと伸びて静止する。そのひじに向かって弓を突きつける。


 ゼロ距離。

 これなら矢をつかむこともできないだろう、と思ったその瞬間。


 茶色い残像が視界を横切った。


「パンンンッッッ!!!!!」


 弓の弦が切れた……???


 残像が現れた方向に顔を向けると、クロススパイクの修道服の胸部分がはじけ飛んでいた。


 中からグロテスクな枝の塊が露出している。


「こいつ……!【人食い木】を飼っていたのか……!」


 苗木のようだ。クロススパイクの胸に寄生しており、宿主かのじょに危機が迫ると護衛する仕組みらしい。


 やれやれ、弓も壊れた。だが矢は残っている。

 ぴぎゃああと奇声を発する【人食い木】に向かって、僕はやじりを突き立てる。


「ぴぎぃ!!!」

 

「や、やめるんじゃ!!」


 ついで飛びあがりながら、横回転。

 右脚を水平に上げる。足底で、クロススパイクの胸を捉える。


 狙うは【人食い木】に刺した矢。あれではまだ刺さりが浅いけど、そこに蹴りを食らわせることで――


「ピギャアアアアア!!!!!!!!」


 矢は深く突き刺さり、【人食い木】は死亡した。


「ぐあああ!!!!!!」


 連動したようにクロススパイクも絶叫する。

【人食い木】は彼女の心臓の上の位置に生えていた。


【人食い木】を貫通した矢はクロススパイクの急所にも到達して、ダブルキルとなったのだろう。

 

 システムからアナウンスが流れる。


【決闘終了。勝者、クローバー】


「しゃあッ!!!!」


「……っ!!!」

 

 クロススパイクはぐらりとよろめいた。

 【決闘】の敗者に与えられる、気絶モーションの前兆だろう。


「見たか!ハンディを与えて戦う相手じゃねえんだよ、僕ァ」


「……クソッタレ」


 クロススパイクは悔しそうに僕をにらんだあと、ぐりんっと白目を剥いた。

 ふらふらと数歩後ろに後ずさり、小石につまずき、バランスを崩して倒れ込もうとした瞬間――



 気絶するはずの彼女は、ギザ歯をギラリとかっぴらく。

 

「チェックメイト、じゃ」

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