イタズラ好きのドラゴンと、本当のお友達🐉🐿️✨
ほしのしずく
第1話 イタズラ好きのドラゴンと本当のお友達
むかしむかし、あるところ。
きれいなみずうみのほとりに、からだのちいさなドラゴンがいました。
そのドラゴンは、ちいさいせいで、ほかのドラゴンとなかよくすることができませんでした。
おはなしをしたくても、とおくからみつめるだけです。
そんなちいさなドラゴンですが、けっしてふしあわせではありませんでした。
ちいさなドラゴンのそばには、いつだってしんゆうのリス、うさぎ、みつばちにちょうちょ、からだのちいさなともだちがいたからです。
どんなことよりも、みんなでのんびりおはなしをすることがだいすきでした。
ところが、あるひ。
いつものように、みずうみのほとりにあるコケのはえたいわでリスたちをまっていると、あたたかいたいよう、からだをなでるやさしいかぜがきもちよくて、ねむってしまいます。
「ずびびぃー、ずびびぃー」と、はなちょうちんをふくらませたまま、おきるようすもありません。
それから、しばらくして。
ねいきをたてるドラゴンのみみに、バサバサとなにかをはばたかせるおとや、じぶんよりおおきなはないきがきこえてきました。
ちいさなドラゴンは、そのおおきなおとにおどろいてとびおきます。
「……リスくん、はちみつはあげないよ! あれ、みんないない?」
とつぜんおこされたちいさなドラゴンは、まだゆめだとおもっています。
「もういっかいねれば、もとにもどるのかな? わからないけど、ねてみよう」
そういうと、ちいさなドラゴンは、コケのはえたいわにもたれかかってめをとじました。
すると、とつぜんおおきなわらいごえがきこえてきました。
なにがおきたのかわからず、ちいさなドラゴンは、めをひらいて、あたりをキョロキョロとみわたします。
「な、なに?!」
すると、うしろにあこがれのおおきなドラゴンたちがいたのです。
「あ、おおきなドラゴンだ!」
おおきなドラゴンたちは、きれいなみずうみにくちをつけてゴクンゴクンと、のどをならしていました。
かれらは、みずをのみにきたのです。
でも、ちいさなドラゴンはふしぎにおもいました。
なんで、みんなわらっているんだろう。
なんで、あしもとをみているんだろうと。
ちいさなドラゴンは、したをみます。
すると、そこには——。
「あれ……? どうかしたの?」
からだのおおきなドラゴンがいっとう、しりもちをついていたのです。
まわりのおおきなドラゴンたちのはなしによると、どうやら、ちいさなドラゴンがとびおきたことに、おどろいてころんだようでした。
ちいさなドラゴンは、よくないことをしてしまった。
そうおもい、しりもちをついたドラゴンに、てをのばし、からだをおこしてあげます。
「ご、ごめんなさい……」とひとことつげて。
けれど、おおきなドラゴンは、じぶんよりつよくおおきくてあこがれのそんざいなのです。
おこしてあげたのはいい。
わるいことをしたから、ごめんなさいもした。
でも、だからこそ、きんちょうしてしまったのです。
ちいさなドラゴンは、おおきなドラゴンたちをまえにして、つぎのことばがでてきませんでした。
どうしようもなくなったちいさなドラゴンは、そのばでウロウロしてしまいます。
ですが、そのむれのなんとうかのおおきなドラゴンは、わらいながらくちにしたのです。
「なかなか、おもしろいな!」と。
さらには、おこしてあげたおおきなドラゴンも、「びっくりしたけど、まぁ……おもしろかったよ!」とえがおをみせてくれました。
ちいさなドラゴンは、そのばでホップ・ステップ・ジャンプ。
からだでめいっぱいよろこびをあらわします。
はなすことすら、むずかしかったあこがれのおおきなドラゴンたち。
そんなかれらが、おもしろいといいじぶんをみてわらってくれた。
それが、すごくうれしくて、うれしくて。
このひから、ちいさなドラゴンは、おどろかすことがだいすきになりました。
くるひもくるひも、おおきなドラゴンたちをおどろかしつづけます。
それはもう、おもいつくかぎりのことをしました。
おおきないわのかげにかくれて、おおごえをだしたり、ときには、ひをふきながらとつぜんとんできたりと。
さいしょは、みんなわらってくれました。
「ようきなやつだな」
「かわったやつだけど、にくめない」
「たのしいことが、だいすきなんだな」
そんなことをいわれていました。
ちいさなドラゴンもそれがうれしくって、「イタズラはいいことなんだ!」とおもうようになりました。
ところが、あるひのこと。
ちいさなドラゴンのともだちのなかでも、いちばんのなかよしだったリスがいうのです。
「だれかをおどろかすとこわがらすのは、にているからきをつけないとだめだよ」と。
でも、ちいさなドラゴンはそのことばをききませんでした。
あの、おおきなドラゴンたちがこころのそこから、イタズラをたのしみ、かわったじぶんをうけいれてくれていると、そうおもっていたからです。
それでも、リスはひきませんでした。
「ボクは、キミのことがしんぱいなんだよ? このままだと、いつか……ひとりになっちゃうよ? もっと、みんながえがおになることをしようよ!」
小さなからだをめいっぱいつかって、コケのはえたいわに、もたれかかるちいさなドラゴンにかたりかけました。
リスからみて、からだのちいさなドラゴンはむりしているようにみえたのです。
けれど、そのきもちはつたわりませんでした。
ちいさなドラゴンはからだをおこすとくびをかしげたのです。
「ボクがひとり? みんなが……えがお?」
「うん! そうだ、また、みんなとおしゃべりするのは、どうかな? おいしいはちみつがあるって、みつばちさんがいっていたよ? うさぎさんも、あまいくさをみつけたって! だから、ボクらといっしょにすごそうよ!」
だれよりも、やさしくていちばんだいすきなおともだち。
そんなちいさなドラゴンがむかしのように、ココロからえがおになれるように、リスはねがいをこめてかたりつづけました。
だけど、ちいさなドラゴンはゆずりませんでした。
「みんながもとめているから、するんだよ!」
おおごえをあげると、つばさをバサバサとはばたかせてリスをにらめつけます。
そして、スゥーといきをすいこむと、ゆっくりじぶんのかんがえをくちにしました。
「ボクはたのしいし、みんなもいまのボクをみて、あかるくなったっていっているよ? むかしは、だれもボクにみむきもしなかったのに。でも、いまはちがう! みーんなボクにむちゅうなんだよ? おおこえをあげたら、おなかをかかえてわらうんだよ?」
リスが、「それはちがうよ! だって、ドラゴンくんおおきなドラゴンのことこわいって、いってたよね——」と、はなしをとめようとしてもちいさなドラゴンはとまることはありません。
「いいからきいてきいて! ひをふきながら、とんだときなんて、とびおきておもしろいって、いってくれたんだよ! ね? ほら、ボクって、にんきものでしょ? だから、もうこわくなんかないよ! だって、ともだちなんだから!」
うれしそうに、そういったのです。
そうなのです。
このちいさなドラゴンは、じぶんよりおおきなからだのドラゴンとはこわくて、なかよくできなかったのです。
いつだってちいさなドラゴンのそばにいるのは、リスにうさぎ、ちょうちょにみつばちたちといったちいさくておとなしいこたち。
そのこたちと、すきとおったみずうみのまえで、いちにちあったことをおはなしする。
そこにはえたきれいなはなやくさをみながら、みんなでとりにいったきのみや、あまいはちみつをたべながら。
それが、すこしまえまでのちいさなドラゴンでした。
でも、いまのドラゴンには、そのときのともだちも、とれたてのきのみも、あまくておいしいはちみつもありません。
いるのは、ちいさなころからいっしょだったリス。
そして、かつてこわいとおもっていたじぶんより、おおきなドラゴンたちだけです。
「ドラゴンくん、おともだちって、むりしてつくるものじゃないよ? あのときだって、たのしかったでしょ?」
リスはこけのはえたいわをのぼって、ちいさなドラゴンのあおくすんだひとみをのぞきこみます。
それでもちいさなドラゴンは、うなずくことはありませんでした。
それだけではありません。
こともあろうか、どんなときもいっしょにいてくれたリスをはないきで、とばしてしまったのです。
「うるさい……! ボクはかわったんだー!」
そんなことをいって。
ただ、リスをとばしてしまったそのとき。
ちいさなドラゴンのこころのなかで、なにかが「パキン」とこわれるおとがしました。
「リスく——」
ちいさなドラゴンは、じぶんがしたことのひどさにきづいて、ひっしにてをのばします。
でも、もう、とどきません。
リスは、くるくるくる〜とそらをまわり、かぜにさらわれていきます。
どこかにぶつかったりして、けがしないでほしい。
ちいさなドラゴンは、そんなことをおもいながら、リスをみつめます。
すると、どうでしょう。
そのねがいがとどいたのか、リスはきのたくさんはえたもりにゆっくりとおちていきました。
そこから、しばらくして。
こけのはえたいわに、リスはもどってくることはありませんでした。
「だいじょうぶかな……?」
ちいさなドラゴンは、すがたをみせてくれないリスのことをしんぱいしていました。
でも、おなじくらいかなしいきもちになっていたのです。
「おともだちっていってたのに……ボクが、かわったことを、みとめてくれないんだ」
よくないことをしたはずなのに、いつのまにか、しんぱいしていたきもちをこえて、かわったじぶんをみとめてくれなかった。
そのことでいっぱいになってしまったのです。
それでも、ちいさなドラゴンは、リスをさがそうとはしませんでした。
すこしまえのちいさなドラゴンであったら、けがをさせていたら、どうしよう。とかんがえて、ほかのちいさなともだちのてをかりてでも、さがしたでしょう。
けれど、いまのちいさなドラゴンは、できませんでした。
だいすきないちばんのともだち、リスにちがうといわれて、あたまにきてしまい、ふきとばしてしまったのですから。
――そのあと、ちいさなドラゴンのまわりにいたおおきなドラゴンたちは、しん……と、なにもいわなくなりました。
おおきなドラゴンたちは、そのひとみでちいさなドラゴンがリスにしていたことをみていたのです。
それでも、おおきなドラゴンたちはそのことをつたえようとはしませんでした。
ただ、こころのなかで、ちいさなドラゴンはともだちをだいじにできないやつなんだ。
そうおもうようになりました。
このひから、ちいさなドラゴンへのたいどかわっていきます。
あいさつをしようとも、プイッとそっぽをむいてしらんぷり、かたをたたかれてもへんじすらしてくれません。
それでも、ちいさなドラゴンはおどろかすことをやめられませんでした。
だれもちゅういしない。それがいちばんつめたい『いやだ』なんだと、ちいさなドラゴンはまだきづけなかったのです。
なので、いままでとおなじように、いわにかくれておおごえをだしひをふいても、もうだれもことばをかえしてはくれません。
すると、とうとう、おおきなドラゴンのいっとうが、ちいさなドラゴンのことをじーっとみつめたとおもったら、フン! とはないきをならして、とびたっていきました。
ちいさなドラゴンは、それをふしぎにおもい、はないきをならしたおおきなドラゴンをおいかけましたが、「じぶんでかんがえろ」とだけいって、とびさってしまいました。
おおぞらにのこされたちいさなドラゴンは、なぜこうなったのか、わかりませんでした。
ここで、じぶんのすがたをみることができたら、そのわけをわかったかもしれません。
でも、ちいさなドラゴンは、じぶんのことをすきになってもらいたくて、もっと、もっとイタズラをしてしまいます。
ひをふいたり、みんなのだいじなばしょだったみずうみのみずをおもいっきりふきとばしたり――。
まるで、「ボクをみて、みてよ!」とさけぶように。
みんなにアピールするように。
そんなことをくりかえしていると、しゅうへんにはえていた、きはギシギシとおとをたてゆれて、リスたちのひかげになっていたはっぱもおちてしまいました。
それでも、ちいさなドラゴンは、きづくことはありません。
これもたのしんでくれるはず、よろこんでくれるはず。
そう、しんじてあばれつづけました。
そのころ、リスはきのかげから、ちいさなドラゴンになにかをおもいながらみつめていました。
そうなのです。
リスはぶじでした。
きのえだや、このはがクッションになって、どこにもケガをせずにすんだのです。
ですが、リスはちいさなドラゴンにはなしかけることはありませんでした。
ただ、ただみまもるのみだったのです。
それからなんにちかがたったあるひ。
ひときわおおきなドラゴン、むれのおさがちいさなドラゴンにこえをかけてきました。
ちいさなドラゴンは、ようやく、じぶんをみてもらうことができたとおもって、つばさをバサバサとはばたかせます。
ところが、ちかづいてきたむれのおさかは、えがおではありません。
「ど、どうしたの? たのしくなかった? あ、そうか! もっとすごいことをしないとダメってことだね!」
ちいさなドラゴンは、ふしぎにおもいながらも、そうかたりかけます。
でも、めのまえにきたむれのおさは、ゴオン、とひくいこえでいいました。
「もう、おれたちのまえに、あらわれるな! おまえなど、なかまでもなんでもない。ここからでていけ」と。
それは、ともだちにむけることばでも、しせんでもありません。
でも、イタズラずきとなったちいさなドラゴンには、なぜこうなったのかわからず、どこがダメだったのかききます。
「ボ、ボクは、みんながよろこんでくれるとおもってしたんだよ? なのに、なんでそんなことをいうの……?」
ですが、むれのおさは、こたえることなく、とびたっていきました。
「オマエになにをいってもいっしょだ……じゃあな」
そんなことばをのこして。
そして、ちいさなドラゴンはひとりになりました。
もう、そのちかくには、イタズラをぜっさんしてくれていたおおきなドラゴンたちも、こころやさしいちいさなともだちもいません。
あのみずうみもイタズラをくりかえしたせいで、すんだみずはなくなり、はえていたいろとりどりのはなも、みどりいろがきれいなくさも、かれてしまいました。
「みんな……ボクのせいだ……」
ちいさなドラゴンは、めのまえにひろがる、かわってしまっただいじなばしょに、あたまをかかえてしまいます。
ちいさなドラゴンは、ようやく、きづいたのです。
だれかのすきなボクになろうと、むりをしていたことに。
ほんとうに、すきだったことは、ちいさななかまたちと、ただおはなしをすること。
もともと、おおきなドラゴンたちは、にがてだったことに。
ポロリ。ポロリ。なみだがふたつ、おちました。
あたまには、あのこころやさしいリスのすがたが、うかびます。
「ごめん、ごめんね……。ボクが、わるかったんだ。リスくん、ごめんね」
もっとはやくいえばよかったことば。
ちいさなドラゴンは、いつもじぶんをしんぱいしてくれていたリスのまっすぐなひとみをおもいうかべました。
でも、どれだけ、のぞんでも、ずっとそばにいてくれたリスはいません。
あのうつくしかったばしょも、もどってはきません。
いったい、どれだけなきつづけたのでしょう。
かつて、イタズラずきだったちいさなドラゴンのまわりには、すんだみずうみができ、いろとりどりのおはなや、きれいなくさがたくさんはえていました。
やさしいにおいが、ちいさなドラゴンをつつみ、かつてたいせつだったばしょよりも、すてきなばしょになっています。
でも、ちいさなドラゴンはきづけません。
かなしくて、かなしくて。
もう、ひとしずくもなみだはでないのに、めをふさいでうつむいたままだからです。
「うぅぅぅ……ごめんね。みんな……」
すると、からだをなでるやさしいかぜにのって、どこか、ききなれたこえがきこえました。
「ドラゴンくん、ドラゴンくん、おきて! みんなつれてきたよ」
なきつかれたドラゴンがかおをあげると、そこにはかつてかたりあったちいさなともだちがいました。
もうカラカラになったはずの、ちいさなドラゴンのひとみから、なみだがあふれでます。
それは、さみしいきもちからくるなみだではなくて、しあわせなきもちからくるなみだでした。
ちいさなドラゴンは、いてもたってもいられなくて、「また、いっしょに、おはなし……してくれるの?」と、なみだをながしながらいいました。
すると、ちいさなともだちのいちばんまえにたっていたリスが、まんめんのえみでこたえました。
「あたりまえさ! ボクたちはおともだちでしょ? ボク、ちゃんとドラゴンくんが、どうにかしようとしてたことしっているもん! それにね、けんかしたら、またおはなして、なかなおりすればいいんだよ!」
リスは、ずーっとないていたドラゴンを、きのかげからみていたのです。
もちろん、リスだけではありません。
ここにきたちいさなともだちぜんいんでした。
みんなひとりになってしまったドラゴンをほうっておけなかったのです。
やさしいまなざし、そしてリスのことばをうけたちいさなドラゴンはコクリとうなずいて、そっとまぶたをとじました。
ちゃんとみてくれていたから、ちゅういしてくれた。
ちゃんとみていてくれたから、こうやってまたすがたをみせてくれた。
「このままでよかったんだ……ボク」
そうつぶやいたちいさなドラゴンのむねには、あたたかいなにかがひろがっていきました。
それは、しあわせがこころいっぱいにひろがったしるしでした。
そのあと、ちいさなドラゴンとちいさなともだちのみんなは、あめのひも、かぜのひも、あらしのひも、たすけあい、たのしいひびをすごしました。
そこには、つくったえがおや、だれかにのぞまれてというイタズラずきだったちいさなドラゴンはいません。
おとなしくも、やさしいえがおをさかせる、ともだちおもいのちいさなドラゴンがいたのです。
そして、そのずーっとさきのみらい。
ちいさなドラゴンのなみだで、できたみずうみは、いつしかやりなおしのみずうみとよばれるようになりました。
そのえいきょうでしょうか?
じかんがながれていくにつれて、そこにはからだのおおきなドラゴンだけではなく、いつしか、からだのちいさなどうぶつたちもあつまり、おたがいのよさをみとめあうようになりました。
それはかつて、ちいさなドラゴンとリスたちがみせたたいせつなだれかを、ゆるしてみとめる。
こうどうそのものでした。
もしかしたら、かれらのあいてをおもいやるきもちが、ながいときをこえてとどいたのかもしれません。
みずうみにみんなのおもいがやどっていたのかもしれません。
ほんとうのことは、だれにもわかりません。
けれど、おおきなドラゴンたちも、ちいさなどうぶつたちも、いつまでもいつまでも、なかよくすごしましたとさ。
おしまい☆
イタズラ好きのドラゴンと、本当のお友達🐉🐿️✨ ほしのしずく @hosinosizuku0723
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