使徒らしいこと

 病院に寝転んでいたリアベルは、昨日の演習を思い出す。誠と精鋭たちの戦い、自分と徹の一騎打ち。どちらを思い出してもいまだ胸を熱くする。いまだ動けない体ながら、剣を振りたくてたまらない。こんな気持ちになるのは、何十年ぶりだろうか。嬉しさがこみ上げて自然と笑みがこぼれてしまう。不意に部屋の扉がノックされる。




「隊長お加減どうですか?」




入ってきたのは、天井まで届きそうな巨体を抱えるリキだった。彼も腕に包帯は巻いているものの、動きに問題はなさそうだ。




「大丈夫だ。腕も二か月もすれば治るらしい」


「良かったです」




そういいながら、ベットの傍らに椅子を引いてきて腰かける。




「すまないな。業務を任せきりにしてしまって」


「良いんですよ。普段が働きすぎなんですから。いい機会だと思って、ゆっくりしてください」


「そうさせてもらうよ。他の子たちの様子はどうだ?」


「みんな、今までにないやる気です。目論見通り、演習が効きましたね。自分も誠殿の言葉は刺さりましたから」




少し、視線を下げ気まずそうにする。




「皆この里が大切だものな。自分たちで守り切れなかったあのやりきれなさは、なんとも言い難い」




リアベルはリキの肩に優しく手を置いた。




「我々は力不足だった。だが、幸い次がある。英雄達が繋いでくれたこの里を、今後は自力で守れるよう強くなろうではないか」


「そうですね」


「それで、英雄達はどうしてる?」


「彼らは今大侵攻の戦地だった場所に行っています」




徹たちの行き先に首をかしげるリアベル。その様子に気づいたリキ言葉を付け足した。




「鎮魂の祈りをささげに行くんだそうです」


「鎮魂……魔獣たちにか」


「はい」


「なんとも……使徒らしいな」




クスリと笑ったリアベルにリキも笑顔で返す。




「えぇ、忘れてましたよ彼らが使徒だってこと」




病室から笑い声がこぼれ、窓に止まっていた鳥が曇天の下、空へと旅立っていく。






 曇天の中、徹と誠はかつての戦場を訪れていた。徹の足と誠の腕には包帯が巻かれていたが、その動きに痛みを引きずる様子はない。二人の後ろをいつも通りルナリアがついて歩いていた。




「死体とかはもうないんだな」




徹が戦いの痕だけが残る平原を見渡す。




「そうね、食用にならない魔獣は魔法で焼いてしまうの」


「魔獣は火葬なのか」




誠が前の時間軸で、リアベル達を火葬しようとした際、ルナリアが激昂したのを思い出した。振り向きながら訊いてみる。




「火葬というか……魔獣に対して弔いとか、そういうのないわね。単純に魔獣を土に埋めるには場所がもったいないし、燃やした方が楽だっていう感じね」


「そうか」


「じゃあ、俺たち変人に映るかもな」


「もともと変人でしょ?」




ルナリアは、何を言ってるんだと言いたげな表情になる。




「それに、あなた達が私たちを理解しようと努力してくれるように、私たちもあなた達を理解するように努力する。お互いさまってやつよ」


「そうか。ありがたいな」


「そうだな。じゃあ、始めるか」




誠と徹は顔を見合わせ頷きあう。合掌して同時に呪文を唱えた。




「「着装」」




静かな詠唱にもかかわらず、凛とした声は平原に響いた。荘厳な法衣が二人を包む。見るのが二回目のルナリアもその美しさに息を呑む。普段の二人からでは考えられない静粛な雰囲気に自らの背を伸ばし、自然と姿勢を正してしまう。




「俺たちの最大の被害者は彼らだよな」


「俺らが来なけりゃ樹海内で生きていたんだろうし」


「「ただ安らかに眠ってくれ」」




そういって、二人は静かに合掌して目を閉じる。黙祷している二人をみて、ルナリアも同じように合掌してみる。雲の切れ間から、陽光が徹たちを照らし出した。風が優しく吹き、雲からこぼれる光が一つ、また一つと増えていく。やがて、かつての戦場が柔らかい陽光に包まれた。徹たちがゆっくりと目を開く。そのまま深く頭を下げた。顔を上げて空を見上げると、透けるような青空が広がっている。そこを自由に飛ぶ鳥を見つけ、誠と徹は優しく微笑んだ。黙祷を続けているルナリアに声をかけ、三人は元戦場を後にした。小さな花が三人に手を振る様に揺れている。


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