この作品を読んだのは実は少し前だったりする。うおお、こんなの書きてえ! と影響を受けて自作の執筆に走ってしまい、レビューを書くのを忘れていたのだ。自作を一気に書きあげて何だかレビューを書いた気になっていた。そのくらい本作は自分には突き刺さってしまったんである。
言い訳はこのくらいにして、本作の魅力を述べる。そもそも作者ご自身が掌編と銘打っている通り、三千字強の短い作品だ。にもかかわらず冒頭から読み手の想像の世界がドカンと広がる。森林軌道の列車を待つ一人の女性の目を通して、険しい山道の奥、冬には雪に閉ざされる山間の集落、街と集落を結ぶ軌道線の鉄路の鈍色、木炭エンジンが噴き上げる黒煙、そして僅かな期間だけ再会する女性の交際相手。その全てが脳裏に鮮やかに浮かぶ。
主たる話は二人の短い逢瀬と別れ。大雪がさらに二人の時間を縮め、軌道列車は雪の向こうへと青年を連れ去っていく。ただこれだけの話だ。でも二人の食事のシーンの睦まじさや、悲しみつつも春にまた会えると別れを躊躇しない彼女の芯の強さ、電話や手紙を約束し合う二人の思いやりの深さが丁寧に描かれ、ああ早く春が来るといいのにと本気で思ってしまう。文章の中にだけ立ち上がる小さいけれども確かな世界を、ぜひ堪能してほしい。