我楽多な奴らは同人に没頭中! 〜拗らせ同人作家たちの日常創作譚〜

端谷 えむてー

第1話 大爆死!!冬のコミックマーケット!

 冬のコミックマーケット

 そこにサークルとして参加した私は絶望感に満ちていた。


───ああ、ダメだ。もうダメだ。


 脳の集積回路もろくな働きをしてくれない。

 何故、コミックマーケットとに来てまで私はこんな悲観的になっているのか。それは私のスペースの卓上にある雑誌が原因だ。

 コミックマーケット開場して四時間が経過。

 そして、現在の我がサークルの同人誌売り上げがゼロ部。

 「初参加でゼロ部は当たり前」と言われていたとしても、こう向き合ってみると、やはり堪えるものがある。

 無意味にコミックマーケットのカタログをペラペラしていた時……。


「……これ、読んでいい?」


 一人の少女の声がした。

 ものすごく小さい。小学生くらいだろうか。


「あ、いいですよ……」


 私はそう言って、同人誌を少女に差し出す。すると、少女は興味津々でその本を読み始めた。

 そして、しばらく時間が経った頃。スペースの卓上に突如五百円玉が置かれた。


「これ、ください!」

「え?あ、はい……!」


 そうして、私はたった一部の売り上げを記録した。

 うん、たった一部……。

 そのため、私は多くの呪いうれのこりを抱え、東京ビックサイトを後にした。


*****


「ああー!しっぱいしたー!」


 東京から関西に戻った超底辺同人作家・三上ここのは悶えていた。

 彼女はコミックマーケットで大好きなソーシャルゲーム「武人魔法少女マジカルミクス!」の同人誌を制作し、出展した。

 しかし、その結果は前述した通り、散々なものであって……。


「どーせあの一冊買ってくれた人も私に同情して買ったんだー。そーなんだ、そーなんだ!」


 そんなコミケの結果を受け、彼女はチョー悲観的になっていた。

 もう二度とあんな地獄を味わいたくない。

 コミックマーケットへの退避精神はすでに済んでいた。


「……そういえば、もう年明けとるんかな」


 スマホを見てみると、どうやらまだ年は明けていないようだ。しかしもうじき明ける。


───なんか今年の年明け虚しいな。

 悲しくなってきた。

 とにかく、X見よう……。


 ここのはそう思って、スマホを立ち上げ、Xを開く。

 すると、早速「コミケ」というワードがTLに現れた。


「ゔっ……思い出させるなぁ」


 しかし、その投稿内容が何故か少し気になってしまった。この投稿バズっとる。

 このポストの投稿者は超大人気作家のしんにまちわこさん。絵もバチくそに上手く、漫画も神の漫画、同人誌の神と言われるくらいの出来、毎回のコミケで不動の地位を築いている。

 そりゃ、こんなに伸びるわけだ……。して、その投稿内容は……。

 どうやらコミケの戦利品報告のようだ。


『コミックマーケット1XXお疲れ様でしたー!色々買ってきました!!』


 その画像には大量の同人誌が並べられている。

 そういえば、しんにまちわこさん、コミケ来てたのか。あまり人前には顔を出さないと聞いたことがある。

 コミケでのスペースでも基本売り子任せで、自分が売ることはそんなにしないようで、そんなしんにまちわこの正体は界隈でも一種の謎となっている。

 とりあえず、来てたんだなーと軽く流そうとしたところ……。どうやらその投稿には続きがあったらしい。


『あと、この本!!あまり目立って無かったけど、めちゃレベル高くて良い本だぞ!あまり売れてないように見かけたけど、なんでこれ買わなかったの!?みんな!!』


「へーわこさんがそんな絶賛する底辺サークル……きっとこれきっかけで出世するよな。このサークルの同人誌買っとけばよかった」


 そうして、特に気にも留めず、そこに添付されている画像も確認せずに私はそのポストをスクロールした。


 そして、除夜の鐘が鳴った頃……。ここのはすっかり眠りについていた。

 その睡眠を阻害させたのは、一回のインターホンの音であった。


「……ん、なに」


 ここのは寝ぼけて、フラフラとふらつきながら、玄関の方へと向かう。

 玄関扉を開けると、そこには見知った顔があった。


「よ、あけおめ!」


 煌びやかな笑顔を見せてきたこの女は二ノ宮スバル。昔からの幼馴染で今はバンド組んでるらしい。結構人気なようだ。


「で、年明け早々何しにきたの?」

「いや、お前んちで呑めねーかなって。一人で呑んでても虚しいだけだからさ。ほれ、食材あるから鍋でもやろうぜ」


 と言って彼女は袋に入っている食材をみせびらかしてきた。


「こんな夜に食ったら健康に良くないよ」

「なーに、正月くらい別に良いじゃん」

「それ、正月太りして後々後悔するやつ……」

「未来の心配事は未来の自分に任しとけばいいの!とにかくさっさと上げてよ、外寒いんだって……」


 そうして、スバルはズカズカと私の部屋へ入って行った。


*****


 スバルが鍋の準備をしている間、私は炬燵こたつに入りながらぼーっとテレビを見ていた。

 でも暇なのでスバルに話しかけてみる。


「ねーすばるー」

「なんだー?」


 調理の音に紛れて彼女の声が聞こえる。


「そういや、なんでここいるの?実家帰らなくていいの?」

「今年は大阪で年末ライブがあったからなー忙しいだろうから別に帰らなくてもいいって言われよ。お前は?」

「私んとこは別にそんな帰省に関しての強制力はない。帰りたければ帰れみたいな。だから今年は帰ってない」


 ……なんだこの生産性のない会話は。


「そういえばどうだったの?行ったんでしょう?コミケ」


 すると、ギョッとし、肩を強張らせた。

 その反応を見て、スバルは言う。


「よくなかったんだな?」

「さ、さあ……どうだろうねー」


 その時のここのの眼は魚のように泳いでいた。


「その仕草見たら誰でも分かるよ……」

「う……やっぱり?」

「で……?何部売れたん?」


 ここのは渋い顔をしたのち、口を開く。


「一部……」

「……イチは売れたんか」


「うん……売れたよ、でも……」


 その「でも……」からここのの本音ぶちまけパーティが始まると察したスバルは会話の大転換を図った。


「それより!私の年末ライブの映像見てくれたかぁー?LINEで送ったろ?」

「見てない寝てた」

「いや、送ったの一昨日なんだけど!」

「見てない寝てた」

「くそう……「見てない寝てたbot」になりやがって……」


 スバルが歯軋りしながらも、鍋はどんどん完成の一途を辿っており、やがて卓上には立派な水炊きができていた。


「ウマソウ」

「よしだべよー」


 そうして、年明け早々のお鍋晩酌が始まった。


*****


「「ふええええ!!」」


 二人は夜の酒をかっぱらい、酔いに酔っていた。

 そこで無駄な語り合いをしては、馬鹿騒ぎをしている。多分また隣から苦情が来るだろう。


「そういえば、おまえぇ……昨日のコミケで出した同人誌まだ私に見せてないよなぁ……?みせろよ」


 と酔いつぶれたスバルはここのに告げた。

 思考が停止しているここのはそのまま余った同人誌をスバルに手渡す。


「ほれ、どーせもう余りもんなんだからもらっとけー」

「うーん?なんか見覚えのある表紙だな……」

「?んなわけないだろwお前に見せたことないんだから」

「そ、そうだよなww」


 同人誌を受け取ったスバルはそれを乱雑にペラペラとページを捲った。

 最初はとろけて舐め腐った目で見ていたのだが、じきにその目は真剣なものとなっていく……。

 そして、じっくりとその一冊を読み切ったスバルは今一度、その表紙を見返す……。


「……ここの、私、やっぱりこの同人誌の表紙見たことあるよ」


 スバルの声色はとても真面目なものとなっていた。本当に先ほどまで飲んでいた酒がどこかへ消えてしまったみたいな……。そんな感じであった。


「……だからそんなわけないって」


 するとスバルは持っていた同人誌をここのに返し、スマホでXを開いてみる。そして、とある投稿を見せてきた。


「……ほら、これ」


 その投稿は10万いいねの大バズを起こしており、それは、ここのが先ほど見たもの……。


『あと、この本!!あまり目立って無かったけど、めちゃレベル高くて良い本だぞ!あまり売れてないように見かけたけど、なんでこれ買わなかったの!?みんな!!』


 その投稿に添付されている一枚の画像には一冊の同人誌が映っていた。

 そして、その同人誌こそ、ここのが執筆した、「魔力のマジカルミックスクッキング」であった。


「わたしの同人誌……コミケ後にきて爆伸びしてるんですけど……!!」

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