第2話

俺の名はヘリオトロープ。

ウィスタリア聖教国・第二騎士団の団長だ。


そろそろ日が暮れ始め、空が暗くなりだしたのを確認して、俺は騎士団全体に号令をかけた。


キラーウルフの集団を相手に、我が第二騎士団は善戦を続けてきたが、日が落ちてからの戦闘は危険が大きくなる。


「討伐はここまでとする。暗くなる前に撤収だ。しんがり部隊は第五、第六、第七小隊に任せる。 ほかの小隊は訓練通り撤退を行い、速やかに後方へ移動せよ!!」


各小隊は指示のもと、規律正しく撤退行動に移行する。


第二騎士団は、小隊同士の連携を生かし、危なげなく撤退を完了させた。


しばらくして、しんがり部隊も無事に戻り、全団員が瘴気の森から撤退したことを確認する。


――よし。

今日も、全員生きて帰ってきた。


胸の奥に、ようやく安堵が広がった。


第二騎士団は、ウィスタリア聖教国の領土内に発生した瘴気の森を制圧するため、遠征を続けている。


瘴気の森に棲みつく魔物を狩り尽くせば、やがて瘴気は薄れ、人族が住める土地へと変わっていく。


人族の領域を少しでも広げるための任務だ。


だが――

その任務を担わされているのが、いつも第二騎士団だ。


野営地へ戻った俺は、団員たちが夕食の準備をしている様子を眺め、自然と息を吐いた。


「今日も、重傷者なしで終われたな・・・・・」


それが、何よりもうれしい。


任務には期限がある。

計画通りに進めなければならない。


だが、それ以上に大事なのは、団員たちが生きて帰ることだ。


夕食を終え、膨れた腹をさすりながら、俺はふと、昔のことを思い出していた。


――俺も、孤児だった。


貴族の養親に引き取られ、成長し、第二騎士団に入団した。


だが、養親の家で腹いっぱい食べた記憶はない。


俺が初めて「腹いっぱい食った」と感じたのは、第二騎士団に入って最初の遠征地だった。


仲間に囲まれ、遠慮なく食べさせてもらった、あの食事。


あの時の温かさと、仲間の笑顔を、俺は今でも忘れられずにいる。


王宮で出された料理も、貴族の懇親会の豪華な食事も、あれを超えたことは一度もなかった。


だからこそ、第二騎士団は俺にとって、本当の家族なのだ。


――だが。


団長に任命され、次第に分かってきたことがある。


第二騎士団は、国にとって「使い捨て」だ。


食料は十分に与えられず、遠征に出されても、回復魔法を扱える魔法使いは配属されない。


回復薬すら、十分とは言えない。


第一騎士団には、治癒士と呼ばれる回復魔法の専門家がいるというのに。


空腹で力を出しきれず、傷を負い、そのまま命を落とした団員も見てきた。


辛うじて生き延びても、怪我や疲労が蓄積し、戦えなくなれば引退。


だが、国からの補償は何もない。


だから俺は決めた。


第二騎士団の団員を、俺が守る。


勝つための戦いではない。

死なないための戦い方を徹底する。


小隊ごとに陣を組み、連携を重視し、無理をしない。


その結果、任務の進行は遅れる。


そして――

「実力がない」と評価され、さらに物資が減らされる。


悪循環だ。


だが、それでもいい。


俺が守る。

それが、俺の役目だ。


机の上の日付帳を見つめ、俺は小さく呟いた。


「・・・・・そろそろ、任務の期限か」


憂鬱が、胸に沈んでいく。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


僕は、夕食をたらふく食べて、満腹のまま自分のテントへ戻っていた。


「今日のシチュー、すごくおいしかったな」


肉がゴロゴロ入っていて、本当に満足だった。


第二騎士団は、遠征時に十分な食料を持たされない。


だから、魔物討伐と並行してウサギやシカを狩る。


守るべき町から、無理やり奪うことはしない。


それが、僕たち第二騎士団の矜持だ。


たとえ、第一騎士団との扱いが違っていても。


テントに入り、毛布にくるまる。


――ああ。

お腹いっぱいで眠れるなんて、幸せだ。


第二騎士団での生活は、今までの人生で、一番幸せだと思える。


孤児院を出てから、いい思い出はほとんどなかった。


養親に引き取られた僕は、家族ではなく、使用人だった。


殴られ、蔑まれ、最低限の食事しか与えられなかった。


「お前は第二騎士団に入って、死ぬまで魔物と戦うんだ」


そう言われても、何も感じなかった。


どうせ、生きていても楽しくなかったから。


十五歳で騎士団に入団し、第二騎士団に配属された。


そして気づいた。


――ここは、僕と同じ境遇の人間ばかりだ。


孤児院育ち。

貴族に引き取られ、捨てられた者たち。


だから、ここは家族だ。


団長のヘリオトロープさまは、父親みたいな存在で――


そんなことを考えながら、僕は静かに眠りについた。


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