魔力の潮が引くとき

@sikuhakku717

第1話『魔力の潮が引くとき』

🌌 **


──ザン=ヴァルド大陸記・最終稿──**


世界の魔力が沈み始めたのは、

蒼月がひび割れた日のことであった。


大陸の魔力指数は

5240 → 4890(−6.7%)

と急落し、

空の色は重く鈍い鉛へと変わった。


各地の魔導士が慌てふためき、

王達は連日会議を開き、

人々は終末を噂し合った。


だが——

その喧噪の中で、ひとりだけ静かに立つ者がいた。


名を ザン=ヴァルド。


かつて“計算魔導士”と呼ばれ、

魔力の流れを読む術に長けた男である。



---


■ 魔力総量が減っても、彼の灯は消えない


ザン=ヴァルドが蓄えてきた魔力資産は

1600万マグ → 1500万マグ(−6.25%)

と減衰した。


数字だけ見れば痛手だ。

だが彼は眉一つ動かさず、淡く呟く。


> 「まあ……生きてはいける。」




絶望でも楽観でもない。

ただ事実を受け入れた者の声。


彼にはこの世界に珍しい

“確固たる魔力の基盤”があった。



---


■ 揺るぎなき“確定魔力”


世界が乱れる中でも、

彼のもとに流れ込む光があった。


天より降る 分配魔力の祝福


古契より与えられる 配当の光


大地が返す 祝福の残響


そして戦いの果てに掴んだ

 48万マグの“確定魔力”



その総量は、

ひと月で 92万マグ に上る。


大陸が揺れようと、

彼の生活は揺らぎもしなかった。



---


■ 世界魔法網の崩壊


魔力の粒子が濁り、

あらゆる魔術が鈍り始めた。


魔力大河は逆流し、

古龍たちの眠りは乱れ、

大陸の均衡が崩れていく。


誰もが恐れた。


しかしザン=ヴァルドは違った。


彼はただ夜空を見上げ、静かに語る。


> 「潮が引くのは自然の理。

また満ちる日も来る。」




その言葉は、

世界中の混乱とは裏腹に、

あまりにも穏やかだった。



---


■ 影は恐れる必要はない


確定魔力こそが真実


魔力帳の数字が揺らめくたび、

人々は恐怖に沈んだ。


影(評価損)が大きく伸びると、

まるで“自分の人生まで価値が落ちた”ように錯覚する。


だがザン=ヴァルドは違う。


> 「影が伸びたからといって、

太陽が沈んだわけじゃない。」




彼は影に怯えず、

ただ光=確定魔力だけを冷静に見つめた。


世界中が騒ぎを上げる中でも、

ザン=ヴァルドの魔力帳には

揺るがぬ92万マグの光が灯っている。


それは紛れもない事実。

誰にも奪えない真実。



---


■ ラスト:


魔力はまた満ちる


夜。

彼は小さな魔燈を灯し、

静かな風を感じながら椅子に腰掛けた。


外では世界魔法網が悲鳴を上げ、

大陸のあちこちで光が消えていく。


しかし、

ザン=ヴァルドの灯火だけは揺れなかった。


一定の明るさを保ち、

小さく、しかし確かに輝き続けていた。


> 「生活はできている。

まだ大丈夫だ。」




そう呟くと、

彼はまたゆっくりと目を閉じた。


魔力の海は、必ず満ち潮を迎える。


世界が揺らいでも、

ザン=ヴァルドの道はまだ終わらない。

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