奇跡の600円 ~天使と悪魔の残業会議~
今月のバイト収入10万円は、正直もう諦めていた。
あと少し足りない。
でも、まあ仕方ない。
デイトレもある。メルカリもある。配当もある。
バイトだけで10万円にこだわらなくてもいい。
そう自分に言い聞かせていた。
今日は5時間のバイトだった。
「5時間ならちょうどいい」
そう思って現場へ向かった。
作業も終盤。
あと少しで帰れる。
そう思ったその時だった。
現場の人が近づいてきた。
「1時間だけ残業できる?」
その瞬間、私の頭の中に、いつもの二人が現れた。
👼天使
「帰ろう。今日は十分頑張ったよ。」
😈悪魔
「1時間でしょ? どうせ帰っても株価見るだけだろ?」
👼天使
「体も疲れてるよ。」
😈悪魔
「でもお金になるぞ?」
結果。
悪魔、勝利。
「大丈夫です」
こうして5時間バイトは6時間バイトになった。
そして1時間後。
今度こそ終わりだ。
私は心の中で帰宅BGMを流していた。
すると、また現場の人が近づいてきた。
「もう1時間いける?」
えっ。
再び、頭の中で会議が始まった。
👼天使
「もう帰ろう!」
😈悪魔
「ここまで来たら誤差だ。」
👼天使
「いやいや、1時間は誤差じゃない。」
😈悪魔
「でも収入は増える。」
👼天使
「……。」
😈悪魔
「勝負あり。」
結果。
悪魔、二連勝。
こうして5時間の予定は7時間になった。
作業終了後、現場の人が言った。
「今日は助かったから、600円つけとくね。」
600円。
その時は、ただ普通にありがたかった。
「ラッキー」
くらいにしか思っていなかった。
ところが帰り道。
ふと、頭の中で数字が動いた。
「あれ? もしかして……今月のバイト収入、10万円超えたか?」
家に帰って、タイミーとフルキャストの分を足してみた。
結果――
100,579円。
超えていた。
諦めていた今月の10万円を、超えていた。
しかも、よくよく計算してみると、あのお礼の600円がなかったら、
99,979円。
あと21円足りなかった。
21円。
たった21円で、
「10万円未達の月」と
「10万円突破の月」
に分かれていた。
私は静かに思った。
600円、強すぎる。
👼天使
「残業して良かったね。」
😈悪魔
「ほらな。俺の言った通りだろ。」
👼天使
「でも働いたのは本人だよ。」
😈悪魔
「それはそう。」
そして二人は、珍しく握手した。
今月の10万円は、もう諦めていた。
でも、たまたま残業を頼まれた。
もう一回頼まれた。
最後に600円をつけてもらった。
その結果、ギリギリではなく、ちゃんと10万円を超えた。
人生は、ときどき変なところで帳尻を合わせてくる。
MVPは誰か。
残業か。
悪魔か。
自分か。
いや、今日だけは違う。
間違いなく――
伝説の600円である。