第52話 聖章祭
十月初旬の土曜日。
ついに文化祭──通称『聖章祭』の日がやってきた。
秋高し。
空は高く澄み切っていて、青はどこまでも伸びるように広がっている。
待ちに待ったフェスティバルに相応しい雲一つない快晴だ。
今年は季節の歩みがゆっくりらしく、まだ夏の暑さの名残りが感じられるものの、そんな事は、この際些事に過ぎない。
熱気の中汗ばむのも、その趣の一つと言えるだろう。
聖章祭は今日と明日の二日間にわたって行われ、一日目の今日は校内だけの開催だけど、二日目の明日は、生徒達に招待された保護者や親族なども訪れ、賑わいを見せる事になる。
体育館で行われた開会式では、生徒会長が文化祭のスローガン──『青瞬 〜その一瞬しかないアオハルの輝きを掴みとれ!』を発表して皆の共感を得たり、ダンスパフォーマンスで盛り上がる等した。
式を終えた後は、自由行動となり、皆クラスの出し物、メイド&執事喫茶『カシェット』の開店準備に取りかかった。
皆で案を出し合って決めた店名の『カシェット』とは、フランス語で『小さな隠れ家』、『秘密の場所』という意味の言葉だ。
けれど学内で人気の高い葵と陽菜がメイド姿で接客すれば、隠れ家的人気というよりも、公然の人気みたいになってしまいそうだ。
まぁそうなったらなったでありがたい。
売り上げが多くなれば、それだけ最優秀賞が狙えるようになるからな。
俺のシフトは午前中なので、更衣室代わりの控室で、執事服に着替える。
今回使用するコスチュームは、全てレンタルなので汚さないように気をつけなければいけない。
「イケてるな。映画に登場しそうな雰囲気だ」
執事服に袖を通した俺を見て、同じシフトの陽太が褒め言葉をくれた。
「お前も似合ってるよ。孫にも衣装って感じで」
「それって褒められてんのか?」
「気にするな。女子に人気が出そうなのは確かだから」
問われた事には適当に返し、着替えを終え、教室に行くと、あらかたの準備は終わっているみたいだった。
天井にはカラフルな風船が吊り下げられ、壁には模様が綺麗なレースが飾り付けられ、机を繋げて作られたテーブル席には清潔なクロスがかけられて店内を華やかに彩っている。
入口に掲げられた『メイド&執事喫茶カシェット』と可愛い文字で書かれデコレーションされた看板も、手作りで味わいを感じさせる造りだ。
その店内には、既にメイド服に着替え終えた葵と陽菜がいた。
ひらひらのフリルがついたミニスカートタイプのメイド服で、足には白いニーハイソックスを履き、頭にはホワイトブリムをかぶっている。
「二人ともこれでもかっていうくらい似合ってて可愛いな」
「ホントだぜ! これで大繁盛間違いなしだな!」
二人のメイド服姿を見た俺と陽太が手放しに褒める。
「怜人の執事服も紳士的でいい感じね」
「二人とも背が高いからすらっとしてて格好いいね〜」
葵と陽菜がそう言って返してくれた。
「やっぱりメイドは最高だぜ!」
「絶対領域が眩しすぎる······!」
「私の目に狂いはなかった! この空間だけ美的完成度が高すぎる!」
「陽太君も黙ってれば普通にイケメンだもんね」
他のクラスメイト達の反応も良好みたいだ。
準備を整えていると、天井に取り付けられたスピーカーから、生徒会長による文化祭の開催を告げる宣言が届いてきた。
「よし! お前ら気合入れていくぞー! 目指すは売り上げNo.1で最優秀賞だ!」
「「「おー!」」」
陽太の威勢のいい掛け声に皆が応じ、各人が一斉に配置につく。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
葵がしとやかな所作で丁寧に頭を下げ、最初の客を迎え入れた。
──────
「ご注文は何になさいますか? オススメはこちらのAセットになります。ドリンクはアイス飲料なら、珈琲、ミルクティ、コーラ、メロンソーダの四種類の中からか好きなものを選べますよ」
「お待たせしました〜。パンケーキとミルクティになりま〜す」
葵と陽菜が、メイド服をひらひらと振りながら接客に勤しんでいる。
メイド&執事喫茶『カシェット』は盛況で、常に座席が埋まっている状態だった。
「二大美少女効果凄ぇな」
同じシフトの陽太が、感心した心情をぽろりと零す。
「接客も上手くやれてるみたいだ。練習頑張ってたからな」
「客は皆骨抜きにされてるぜ」
二人で話していると、客席の一つで手が挙がった。
「そこの執事さん、注文お願ーい!」
リボンの色が赤なので三年生だろう。
「ほら、ご指名だ。行ってこいよ」
陽太に促され、呼ばれた客席に向かう。
「お待たせしました、お嬢様。ご注文は何になさいますか?」
「君をテイクアウトで!」
朗らかに笑みながら屈託なく所望された。
「すみません、当店ではそのようなサービスは承っておりません」
「あははっ! 冗談だよ。雑誌モデルにもなった噂のイケメンに会いに来たってだけ」
「そうでしたか。光栄です」
「じゃあ注文ね。チーズケーキとミルクティで」
「かしこまりました。出来上がるまで少々お待ちください」
注文をとってキッチンに伝え、しばらくして用意された品を客席まで運んだ。
──────
シフトは午前中一杯だったので、空いている午後からは、事前に約束していた通り、葵と陽菜
、紗耶との四人で文化祭を見て回る事にした。
「怜人先輩、次はあれ食べましょう!」
紗耶がそう言って俺の袖を引っ張る。
待望の文化祭とあって、テンションも上がっているらしい。
「クレープね。デザートには丁度いいんじゃない?」
「私はチョコバナナが食べたいな〜」
葵と陽菜も賛成し、それぞれ好きなトッピングのものを注文した。
「美味しいです! 文化祭の模擬店と思えないクオリティですね!」
「これ、プロに監修してもらったんじゃないかしら」
「チョコバナナも美味しいよ〜」
三人ともその味に満足しているようだ。
「では怜人先輩、口を開けてください」
「えっ? 何をするつもりだ?」
「そんなの決まってるじゃないですか。あーん、ですよ」
「そ、それはちょっと、恥ずかしいというか、なんというか······」
「つべこべ言わずに、はい、あーん」
「おい、ちょ──むぐっ!」
俺は強引に迫る紗耶に、押し込まれるようにして強制あーんをさせられてしまった。
「どうですか? お味のほどは?」
「······美味いよ。でも俺が思ってるあーんとは違ったな」
「常に新しい道を開拓していくのが作家というものですから」
「そう言えば陽菜も以前怜人にやってたわね。無自覚だったみたいだけど」
「そんな事もあったね〜」
陽菜は時に天然な行動をして俺を戸惑わせるからな。
「そうだったな。他にも皆との思い出はたくさんある。どれも得難い大切な宝物だ」
俺がちょっぴり感傷に浸った言葉を発すると、三人は揃って頭を縦に振った
四人で楽しく模擬店を回り、その後は紗耶のクラスがやっているモザイクアートを見に行った。
有名な海外ミュージシャンが描かれた作品に思わず感嘆し、紗耶もそれを作成した一員として誇らしげだった。
そうして文化祭一日目は、仕事を終えた充実感を得るとともに、皆で楽しくすごした思い出を作って終わった。
──一日目は、『オモクロ』をプレイした時と同じように、ヒロイン達とのイベントをいい感じでやり遂げる事が出来た。二日目はゲームのシナリオからは少し外れているみたいだから、焦らずにスマートな対応で紗耶との文化祭デートを成功させないとな。
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