第48話 遊園地デート


 皆で海にいき楽しんだ夏休みも終わりに近づいてきた八月下旬の朝。

 俺は陽菜に、丁度フリーパスのペア券が手に入ったから、この夏の最後の思い出作りにと誘いを受け、二人で遊園地デートに来ていた。

 これも葵との夏祭りデートと同じようなイベントになる。

 フラグ管理は難しいけれど、上手く運べば最後には──



 入場手続きを済ませて園内に入ると、陽菜が家族連れやカップルでひしめく様を見渡しながら声高に言った。


「うわぁ、賑わってるね〜!」


 今日の陽菜は、赤いボーダーに白いサロペットを合わせた遊び心のある動きやすさを重視したカジュアルなコーデだ。

 そのセンスを褒めると、陽菜は嬉しそうにはにかんでいた。



「陽菜はどこから回りたい? フリーパスがあるから遊び放題だろ?」

「う〜ん、そうだね〜。やっぱり最初はジェットコースター!」

「ジェットコースターか。ここの遊園地は絶叫系で有名だからな。よし、それから行こう!」

「うん!」


 他の利用客達のざわめきやアトラクションのリズミカルなBGMを耳に入れながら歩き、ジェットコースターの待機列に並ぶ。


「かなり高低差があるな。かなり怖そうだ」

 

 コースターが高い骨組みの上にあるレールを走る轟音が響き、期待と不安が募る。


「そうだね〜。私はこういうの平気だから普通に楽しめそうだよ〜」


 陽菜はいつになくテンションが上がってワクワクしているようだ。


「それにしてもコースターに乗るのなんて、久しぶりだなー。何年ぶりだろ?」


 転生前の記憶では、小学生の頃に乗って以来となるので、相当前という事になる。


「私も〜。お母さん仕事で忙しいし、家族では中々来れないんだよね〜」


 そんな会話をしていると、俺達の順番が回って来た。


 運がいいのか悪いのか、先頭に乗せられ、シートに背を預けると、「それでは、行ってらっしゃ~い!」というスタッフの快活な声に送り出されて、コースターが動き始めた。


 ──ガタン、ガタン、ガタン······


「このカウントダウンが近づいてくる感じが、なんとも言えないんだよなぁ。心臓に悪い」

「怜人君はこういう絶叫系は苦手〜?」

「あまり得意な方とは言えないな」

「なんでも出来る怜人君にも苦手なものってあったんだね〜」

「当然だよ。俺だって万能にはほど遠い」

「うわぁ、たか〜い! いい眺めだね〜!」

「余裕だな······」


 そうこうしている内に、コースターが頂上に達していた。


 ──ガラララララ!


 一気に急加速して、ふわりと浮遊感を感じるとともに坂を猛スピードで駆け下りて行く。


「うわぁあああああ!」

「うわぁああああい!」


 俺の絶叫が響き、それに反して陽菜は歓喜の声を上げていた。



──────



 ジェットコースターに乗った後は、気分が優れず陽菜に心配されはしたけれど、少し休憩し持ち直してからは、他のアトラクションを楽しむために二人で園内を回った。


 途中、レストランで昼食を挟みつつ、メリーゴーランドやお化け屋敷、ゴーカート等で遊んで遊園地を満喫し、気づけば時間は夕暮れ時となっていた。


「いやぁ、遊んだな〜」


 満足感に浸りながら俺が言う。


「ねぇ、怜人君。最後にもう一つだけ、どうしても乗りたいものがあるんだけど、いいかな?」


 陽菜が顔と口調を真面目なものに改めつつ尋ねた。


「ああ、もちろん。何に乗りたいんだ?」


「あれ」


 陽菜が指さして示したのは、この遊園地の名物として知られる大観覧車だった。


「確かにここに来てあれに乗らないっていう選択肢はないよな。よし、行こうか」


「うん」


 そうして大観覧車の待合列に並び、十五分程度で俺達の順番が回って来た。


 スタッフに促されて、ゴンドラに乗り込む。


 向かい合ってシートに座り、そのまましばらく待つと、ゴンドラが動き始めた。


「今日は楽しかったな。海の時みたいに皆でワイワイ騒ぐのもいいけど、二人でもやっぱり楽しい。陽菜が相手だったからかな。夢中になれたよ」


 ゆっくりと上昇して行くゴンドラの中で俺が想いを紡ぐ。


「私も」


 陽菜は同意を示すと、窓外に顔を向けた。


 黄昏時のアイオライトのような紺青に染まる空の下、影絵のようなシルエットの街並みが広がっている。


 彼女はただ黙したままその情景に目をやるばかりで、何も語ろうとはしない。


 俺もその綺麗な夕景を眺めながら口を噤んだ。


 沈黙が二人の間を流れてどれくらい経っただろうか。


 いつしかゴンドラは頂点に辿り着いていた。


「ねぇ、隣に座っていい?」


 ふと沈黙を破り陽菜が聞いてきた。


「ああ、いいぞ」


 頷きを返し、陽菜が立ち上がって隣に腰を下ろす。


「怜人君」


 呼ばれて顔をそちらに向けた。


 まっすぐな視線で見つめられ、思わず喉が詰まる。


「今から私がいいって言うまで目を瞑って前を向いていて」


「分かった」


 俺は素直にその言葉に従った。


 ──これは、まさか······?


 俺がその可能性に思い当たった時、頬に温かく柔らかいものが触れた。


「······もう、いいよ」


 陽菜の了承を得て、彼女に向き直る。


 その顔はほおずきの実のように真っ赤に染まっていて、恥ずかしそうに視線を逸らしていた。


「葵ちゃんに負けたままじゃ嫌だったから······」


 ボソリと思いを呟く。

 その情報は彼女達の間で共有されていたようだ。


「そ、そうか······」


 ここで気の利いた事を言えればいいのだけれど、内心ドギマギして淡白な反応しか出来なかった。

 これでもう二回目だというのに、中々慣れない。


 再びの沈黙。


 気まずい雰囲気のまま時間は流れ、ようやくゴンドラが地上へと戻った時には、ジェットコースターに乗った時よりも精神的に疲弊していた。



 ──葵に続いて陽菜も······これは一途に一人を想うんじゃなくて、二人とも愛せという事なんだろうか······


 遊園地デートを終え、陽菜を家まで送って行った後も、俺はモヤモヤとした気持ちを抱えて過ごす事になった。



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