第28話 陽菜の相談


 風邪で寝込んでいた日の翌日。


 熱が下がり、風邪が治った俺は、元気に学校に登校した。


 そうして皆に快復を祝われていつもどおりに過ごし、放課後となった。


 今日はこれから、後回しにしてもらっていた警察の事情聴取がある。


 事件の被害者と関係者である俺と葵は、一緒に学校を出て警察署へと向かった。


 そこで刑事の男性に色々と話しを聞かれ、一時間程で解放された。


 刑事さんの話によると、半グレグループである『アッシュ』は、メンバーのほとんどが捕まり、壊滅状態になったそうだ。

 そして彼らの供述により、天城がその犯行に関与していることが明らかになったという。



 それから数日が経ち、学校側が天城に、二週間の停学処分を下した。

 許し難い卑劣な犯行だったけれど、天城は脅されて無理やり葵を誘い出す役目を負わされたとあって、その事情が考慮され、退学だけは免れたらしい。


 見方によれば、あいつもこの事件の被害者に該当するわけだけど、俺は同情する気はない。

 いくら脅されたと言っても、葵を危険な目に遭わせたのは事実だからな。

 『オモクロ』のゲーム内では、『アッシュ』に拉致監禁された葵のその後は、それはもう悲惨で、薬漬けにされ、自らセックスを求める性奴隷に堕ちるという、脳破壊エンドだった。

 今回の事件でも、そうなる可能性はあったのだから、そのきっかけを作った天城は、そう簡単に許すわけにはいかない。


 やはりあいつに任せていたら、俺が求めるハッピーエンドには至らないだろう。

 今回の件で、あいつに主人公の資格がないことは十分に分かった。

 もう遠慮する必要はない。

 幸い、ヒロインの三人全員と良い関係が築けていることだし、このまま仲を深めていけば、俺が彼女達と彼氏彼女として付き合うことも難しくはないと思う。

 そのためには、『オモクロ』のゲーム知識が必要になってくる。

 ゲームのイベント通りに進めれば、彼女達の好感度を上げることができるはずだ。


 確か、ゲームではこの時期、星野のイベントがあったな······本来なら主人公である天城が相手をするものだけれど、今やあいつと俺の立場は完全に逆転してしまっているから、俺がイベントの主役となる可能性は高いはずだ。


 そんなことを考えながら学校での一日を過ごし、放課後になったところで、その星野が俺に話しかけてきた。


「吾妻君、ちょっと相談があるんだけど······」


 その言葉を聞いて、俺は心の中で歓喜に小躍りした。


 キターーー!


 これは星野の好感度を上げる重要なイベントの始まりである行動だ。

 このイベントを成功させるか否かによって、今後の彼女との関係が大きく変わってくる。


「ああ、とりあえず話しを聞こうか。ここでいいか?」


 俺は興奮を悟られないように、努めて冷静に対応した。


「皆に聞かれるのはちょっと······」

「分かった。それじゃあ、場所を移そう」


 そうして俺達は、前に星野の話しを聞いたベンチのある購買までやって来た。


「私に払わせて。相談に乗ってもらう側だからね」

「それじゃあ、俺はブラック珈琲を」

「オッケー」


 星野は頷くと、二人分の飲料を買い、その一つを俺に手渡して、隣に腰を下ろした。


「サンキュー」


 ブラック珈琲の缶を受け取り、タブを開けて一口飲むと、口の中に独特の苦みが広がった。


「それで、相談ってどんな内容なんだ?」

「うん、実はね、ここだけの話なんだけど、私テレビに出演することになったの」

「ええっ!? それは凄いな!」


 ゲームで知っていた情報だけど、わざと驚いて

見せた。


「いったいどんな経緯でそうなったんだ?」

「この前の休日に、私がいつものように美容院の手伝いをしている時にね、テレビ局のディレクターだっていう人が髪を切りに来たんだけど、そこで働いている私を見て、何か気に入られちゃったみたいで、ぜひ番組に出演して欲しいって頼み込まれたんだ」

「へぇ、そんなことがあったんだな。それで、何ていう番組なんだ?」

「『アオハルの輝き』っていう夕方に放映されてる番組なんだけど、吾妻君知ってる?」

「ああ、その番組なら観たことがあるよ。確か、夢に向かって頑張っている若者を応援するって趣旨の番組だよな。でもそれで俺に相談ってのはどういうことなんだ?」

「それが、そのディレクターさんに、以前クラスメイトの髪を切ったことがあるって話したら、ぜひその子も出演して、実際に髪を切っているシーンを撮影したいってお願いされちゃって······」

「何だ、そういうことか。それならかまわないぞ。星野の助けになるし、俺も髪を切ってもらえて一石二鳥だからな」

「ありがとう吾妻君。それじゃあ詳細についてはまた後で伝えるから、連絡先を交換しておこうよ」

「ああ、分かった」




ーーーーーー

【訂正のお知らせ】


 第13話の『紗耶との映画デート』において、紗耶は義妹という設定のはずなのに、紗耶が自分のことを一人っ子と言ってしまっていると、読者の方から指摘を受けたため、訂正させて頂きました。


 至らぬ点があり、読者の方々を混乱させるような

記述をしてしまったことをお詫びします。


 どうも、すいませんでした。


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