私の物語の終焉にエピローグは要らない

夜桜月乃

序章、或いは終章

「貴女は最強の魔女じゃないんですか?」


 私は目の前の魔法使いにそう問われた。


 そういえばそんな二つ名をもらっていたなと、苦笑する。大仰な二つ名にもほどがあるだろうと思う。私はそんなに素晴らしい人間じゃない。むしろ最悪な魔女だ。


 目の前のお嬢さんからは少なくなく私への敬意というものが滲み出ていた。だからこそ、私の目の前に立って、不安そうな表情で私に問うたのだと思う。「私の尊敬する魔女はこんな人だったのか?」って。


「確かに、そんな風に呼ばれてましたね。まったく、私はそんな敬意を払われるような人間ではないのですけどね。だから、殺したんです」


 私がそう言うと、魔法使いは顔を歪めた。彼女は尊敬と、尊敬する相手の行いに対する怒りでこれ以上なく複雑なのだと思う。

 最強の魔女は、きっと人々にとってヒーローのような存在だったのだろう。そんな魔女が、沢山の子供達を殺した。そう簡単に受け入れられる現実ではないはずだ。


「どうして」と、震える声で彼女は言った。


「私は、あの子たちを救いたかったんです」


 私のその端的な一言が気に入らなかったのか、彼女は私をきっと睨んで、そして首を振って顔を少しそむけた。杖を握る手が震えている。


 私は後ろを少し振り返る。綺麗な夜景だ。


 ここは私の物語のクライマックスにふさわしい場所だと、そう思った。


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