第3話 再開

中には数人の生徒がおり、集まって喋っている人、何かを描いている人、本を読んでいる人など様々であった。



その中に後姿ではあるが蜂蜜を溶かしたようなきらめく髪が目に入る。間違いない、彼女に違いない。



確信した。隣に座るべく彼女の方向に歩いていくがまだ緊張がありかなり変な足取りで歩いて行く。はたから見ればかなり滑稽であったであろう。



そして嘘偽りなく人生で最も勇気を出し、彼女の隣に座った。そしてなるべく冷静を装い声を掛ける。


「こ…こんにちは!」


「…こんにちは」


彼女は初めは困惑していたがすぐに顔色が変わる。


「あっ 先週の講義の人ですか? 先日はありがとうございました」


「いえいえ 全然大丈夫です」


そして僕は大きく息を吸ってから話し始める。


「実は僕もこの講義に興味があって…少し前回の説明を教えてもらっても良いでしょうか?」


自分でもしっかりと発声できていたが自信がなかった。もしかしたら声が飛んだり、裏返ったりしていたかもしれない。

そんな不安に駆られていると彼女が口を開く。


「ええ もちろん! 先週は私もとても勉強になりましたんでいつかお返ししたいと思っていたんです」


「…ありがとうございます!」


心の底から舞い上がった。ここで踊り出したい程であった。

そして彼女がいつか借りを返したいと思っていてくれたことになんて良い人なのだろうとますます好きになった。



そして彼女は説明をしてくれた。それはそれは丁寧に説明してくれていたのであろうが説明の内容を理解できるほど理性を残していなかった。  



ただ、この状況が幸せであった。


「あの… だいたい説明はこれくらいなのですが理解できたでしょうか?」


僕は我に返り、答える。


「はい! ありがとうございます とても分かりやすかったです」


「そうですか!良かったです!」


「あの…もしよければお名前聞かせてもらっても良いですか?」 


「…はい!私はマイといいます」


「マイさんですか ありがとうございます マイさんは何か趣味とかあるんですか?」


「趣味ですか、料理するのが好きですかね」


講義が始まるまでの時間は彼女と、マイさんとの雑談を楽しんだ。講義中はこれといった会話はなかったが横にいれるだけでただ幸せだった。

講義も終わり、マイさんは席を立つ。


「ありがとうございました ではまた今度」


「うん またどっかで」


席に座ったまま彼女が扉の外に行くのを見守った。彼女が開けた扉がまた元の位置に戻ったと同時、大きくため息をついて机に伏せた。

もう僕はマイという女性以外の事は考えられないと直感で分かった。



そんな僕にとってまた明日もこの講義室に行くのは当然の決断だった。

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