第4話 作戦会議

「君と取引をしているわけじゃないのだけど……ダイ君。彼は誰かな?」


 マルスと目が合ったのは、一瞬だけだった。

 カジアシは大袈裟に手を広げ、口元だけの笑みを浮かべる。


「彼はマルス。装備の追加をお願いした、もう一人の仲間だ」

「ああ! 彼がそうなのか。なるほどなるほど……で?」


 言葉の圧が増す。決めるのはダイだけだ――そう言外に突きつけられて、マルスは割って入れなくなる。


「俺は、いい話だと思った――」


 ダイの口から出たのは肯定だった。

 だが視線は、銅製の装備でもカジアシでもない。仲間の顔を、ひとりひとり確かめるように見渡す。


 まず、シシドが腕を組んだまま首を振る。


「難しいことはパスだ」

「でも、ひとりで決めることじゃなかった。わりぃ、みんな!」

「まったくもう!」


 アイカが腰に手を当てて呆れ顔を作り、ロロは装備から興味を失ったように一歩引いた。


「あとで説明しろよ」

「うん」


 最後に視線を向けられたマルスは、しっかり頷いて返す。

 答えは決まった――そう見える。最後に判断するのはだ。唾を飲み込んで見守った。


「やっぱりこの取引はしない。俺らに必要なのは、こんな上等なものじゃない」

「はぁ……そうなるか」


 カジアシは力が抜けたように大きく溜息を吐き、深く腰を沈めた。丸く張った腹が、布の上からでも強調される。


「カジアシさん、すみません」

「セイドルフ。がお帰りのようだ」

「よろしいのですかな?」

「これ以上どうしろと言うんだい。――早くしてくれ」

「……かしこまりました」


 ……。


 黒い鍛鉄の門扉が閉まり、金属音が広間に残る。

 マルスたちは追い出されるように敷地の外へ出された。蒸し暑い日差しが照りつける。なのに、みなの表情はいつになく明るい。


「あのジュースは最高だったぜ!」

「おかわりはやりすぎよ!」

「というアイカも二杯もらってるじゃん」

「そ、それは飲めるなら……ねぇ?」

「……シシドは良い仕事した」


 蓋を開けてみれば、何事もなかった。

 ただ――どこか「終わらせてくれた」感じがする。


(契約って、そんなに重要じゃなかったの?)


 マルスは自分の行動に確信が持てなくなっていた。夢の出来事を信じすぎている、と言われれば否定できない。自信のなさが漏れ、言葉になって落ちる。


「みんな、ごめん……」

「ん? 俺らで決めたことだろ、マルス。ただ……なんでやめようと思ったのかは教えてくれよ?」

「戻って作戦会議ね!」


 取引に関わる話は、道中ではその一言だけだった。


   ◇ ◇ ◇


 目的を失った一同は『作戦会議』のためにラブランタンへ戻る。自然と向かった先は、ダイとシシドの二人部屋だった。床の上で円を描くように、みながぞろぞろと座っていく。


「よし、ララーナ冒険隊の『作戦会議』するぞ」

「今日はマルスが追加ね!」

「えっと……これは?」


 マルスは用意されたように空いた場所へ腰を下ろした。正面にはダイがいる。


「毎晩、集まって皆でこうやって話してるのよ。マルスは同札リンクスじゃないから、参加させるのはどうかなって」

「『ディーン様』とか言って、くだらない話が多いからだろ?」

「えーひどい! 大事な情報でしょ?」

「……このやりとりが無駄」


 収拾のつかない会話に、ダイが咳払いを入れて止める。


「マルスをララーナ冒険隊に勧誘しようか、話し合っていたりもしたんだ。俺はマルスとこれからも一緒にやっていきたいと――思って


 過去形。言い間違いじゃない。ダイははっきりそう言った。

 みながばつの悪そうに俯いたり、頬を掻いたりする。


「何か隠しているなら教えてくれよ。じゃないと、これから『仲間』なんて言えない」


 隠しているのは、混乱させないためだった。

 それが結果的に、信頼を揺るがす。


(ただ、僕の境遇をどう伝えるべきなんだろう)


 それがわからなかった。


「そんなに……信頼ないの?」


 迷いを感じ取ったのか、アイカの寂しそうな声色が胸を抉る。

 回帰のことから話そう。マルスは腹を括った。


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「話と違いますねぇ」

「金を貸す契約は、しっかり持ち掛けただろ?」


 応接間でふたりの声がぶつかる。老人はソファに腰を降ろし、足を組んだ。

 ここに、さきほどまでの上下関係があるようには見えない。


「それにしても雑務ねぇ。監視の間違いじゃないか?」

「ははは。どう捉えていただいても結構ですよ。ただ……これで二回。計画が二回も狂っている。どうなっているのかを問う権利が、私たちにはあるかと思いますが」

「そんなこと知ったことかよ。俺はのことはやっている」


 小太りの男は降参するように両手を上げた。


「何者かが乱していますな。あの〝追加〟となった子は?」

「さあな」


 話はそこで終わった。

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