第11話 魔王軍

 西門へ向かう途中で遭遇した雑魚の群れは、ターリアと二人でも十分に対処できた。迫ってくる狼型の魔獣が牙を剥き、俺に飛びかかる。だが――。




「――っ! マナバリア」




 ターリアの声と同時に、薄い光膜が俺の全身を包む。直後、魔獣の牙がバリアに食い込み、ガキンと弾かれた。動きが止まったその一瞬――俺は踏み込む。




「終わりだッ!」




 スラッシュが閃き、狼型は地面に崩れ落ちた。




「ユウマさん……っ、本当に止めてる……! この前よりずっと……!」




「お前のバリアのおかげだ。だから気にせず撃て」




 続く小鬼――ゴブリンの三体が半円状に広がり、こちらを囲むように詰めてくる。




「牽制頼む、ターリア!」




「はいっ! マナバレット!」




 光弾が放たれ、ゴブリンたちの足が一瞬止まる。その間に俺は一気に距離を詰め、横一文字に剣を振り抜いた。三体が同時に倒れ、血飛沫はターリアのバリアに弾かれて消える。




「……ふう。これでひとまず雑魚は片付いたな」




「わ、私……本当に戦えてる……!」




 震え混じりの声だが、そこには確かな手応えもあった。ターリアは、もう昨日の彼女じゃない。




「助かってるよ。バリア強化、最高だ」




「えへへ……!」




 そんな彼女の小さな笑みが浮かんだ瞬間――。




 ――ドォンッ!!




 西門の方角から、街全体を震わせる爆音。さっきまでの比じゃない。煙が空を覆い、大地が唸る。




(……来やがったな。ゲームの中でも、何度も見てきた)




 視界の先、立ちこめる灰煙がゆっくりと割れ、巨大な影が輪郭を見せはじめる。




 ――あれは、ただの魔獣じゃない。




 黒鉄の鎧に覆われた巨体。人間の二倍以上はある。


 肩からは濃い瘴気が立ち昇り、握られた斧は、まるで大木を削ったような異常な大きさ。




 その姿――俺は忘れようとしても忘れられない。




(魔王軍七幹部のひとり……破壊斧のグロズ・オークロード)




 前世のゲームで序盤街襲撃イベントの詰みポイントと恐れられた中ボス。


 防壁を破壊することに特化し、街の門に取りつかれたら最後――あとは蹂躙されるだけ。




 まさに、街の死を告げる破壊の使者だ。




「ユ、ユウマさん……あれ、まさか……!」




 ターリアが声を震わせる。




「ああ……聞いてたより、だいぶ早いお出ましだな」




 グロズは、門へ向かってゆっくりと歩を進めている。


 一歩ごとに地面が揺れ、建物の窓がびりびり響く。




 そのたびに、門兵たちが後退しながら悲鳴を上げていた。




 そして、グロズは口を開いた。




『……ヒトノ街……潰ス……命ニ……従ウ……』




 低く、地鳴りのような声。




(ゲーム通りなら――次の一撃で門が崩れる! ただ……俺の計算では援軍が来るまでの時間は、そう長くない。だから――この場で“持ちこたえる”ことができれば……!)




 俺は剣を構え、ターリアへと短く告げる。




「ターリア。あいつ……幹部クラスだ」




「か、幹部……!? そ、そんな、私たちじゃ……!」




「大丈夫だ。倒すんじゃない。――止めるんだ。門を壊される前に」




 ターリアがぎゅっと唇を噛み、震える手で魔導書を握る。




「……っ、ユウマさんの後ろ、絶対離れません!」




「よし。バリア、厚めで頼む」




「はいっ!」




 ターリアのマナバリアが再び俺を包み、光が強く脈動する。




 同時に、グロズが門へ向けて斧を振りかぶった。


 その斧は、家すら真っ二つにする城割りの一撃。




 ――ここで止めなきゃ、街は終わる。




(行くぞ、破城斧――今度はゲームみたいにやらせねぇ!)




 俺は地面を強く蹴り、巨影へ向かって駆け出した。




 ここからが本当の第一波だ。

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ゲーム世界に転生した俺は、ハードモードを今日も満喫中 軌黒鍵々 @kigurrrrokagi

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