第1章14話:煽りの影響

(というか、さっきゲーム魔法【透刃とうじん】で斬りつけてやったはずだけど……)


フィオネはジャランの右足に視線を向ける。


服に隠れて怪我の様子は見えない。


「つーか、なんでお前がダンジョン攻略班に選ばれたんだ?」


とジャランが言ってきた。


「お前みたいな無能が、Dランクダンジョンの攻略なんてできるわけないだろ? お前と同じパーティーに入れられたメンバーが可哀想だな!」


相変わらず楽しそうにあおってくる。


「そこの二人……お前たちがフィオネのパーティーメンバーか。ならば教えておいてやる。この女はな、固有魔法が使えないんだよ!」


「!!」


エレクとキルティアは眉をぴくりとさせた。


ジャランがにやにやしながら続ける。


「つまりお前たちは、この雑魚女ざこおんなのおりを任されたというわけだ。ツイてなかったな? ぎゃはははははは!」


盛大に笑ったあと、ジャランが言った。


「まあせいぜい頑張ることだなフィオネ? 死んだときは墓ぐらいは建ててやるよ。もちろん、安物やすものの墓をな! じゃあな!」


言いたいことを言って満足したのか、ジャランが立ち去っていく。


フィオネはため息をついた。


相変わらずジャランはめんどくさい。


もう会いたくないな。


そう思っていたとき……


「おいお前、固有魔法を使えないというのは本当か?」


とエレクが聞いてきた。


フィオネは応じる。


「まあ……以前は使えなかったけど、最近使えるようになったわ」


「最近使えるようになった……か。それってつまり、覚えたてってことだろ」


とエレクが呆れたように言う。


「新人冒険者なうえに、固有魔法も覚えたて……ですか。『お守り』というのは、どうやら本当のようですね」


とキルティアも肩をすくめた。


「まったく、冒険者ギルドの試験官は、誰でもかれでも合格にしてるんじゃないだろうな」


そうため息をついたエレク。


(一応わたし、試験官を倒して冒険者になったんだけどね……)


とフィオネは心の中でつぶやく。


しかしエレクたちはフィオネの登録試験については知らないようだ。


エレクが、強い口調で続けた。


「Dランクダンジョンの攻略は危険がともなうんだ。絶対に俺たちの足を引っ張るなよ。せいぜい役に立つ努力をしろ。いいな?」


「あ……うん。わかったわよ」


フィオネはやんわりと答えつつ、内心はムカムカしていた。


(もう! ジャランが余計な事を言ったせいで、私の第一印象が最悪じゃないの! あのバカ令息れいそく……くたばったらいいのに!)


と心の中で吐き捨て、ジャランの背中をにらんだ。


ちなみにジャランも3人パーティーのようだ。


1人はギルドマスター。


彼はおそらくジャランのお守りを任せられたのだろう。ギルドマスターだしね。


もう1人は気弱そうな黒髪の男性だ。


魔法使いっぽいローブに身を包んでいる。


そのときジャランが、その魔法使いの男性を蹴りつけた。


「俺は足を痛めてるんだよ。お前は俺の召使めしつかいみたいなもんなんだから、俺のぶんまでしっかり活躍しろ。お前の手柄が、オレ様の手柄になるんだからよ!」


「は、はい……」


と男性が気弱そうに応じた。


ジャランからいびられているようだ。


可哀想に。


そう思いながら味方の2人に視線を戻す。


「じゃあ、出発するか」


とエレクが言った。


こうしてフィオネたちは、ナナブロスダンジョンへと出発を開始するのだった。





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