「ねえ、カフェいつ行く? 個人的に休日なら明日も空いてるんだけどさ」



 金曜日。そう声をかけられて、亜実は一瞬何の話だかわからなかった。



「あ、この前の。別に佐奈が大丈夫なら今日でもいいよ」



 そう言うと、佐奈は「えっ?」と首を傾げた。



「平日はだめじゃなかった?」



「そんなこと言ったっけ……? 私は平気だよ」



 なぜだろう。最近、どこか霞がかかったように思い出せないことがある。



「オッケー、じゃあ今日行こうよ。明日わざわざ予定立てるのも面倒くさいし」



 頷いて、帰りの支度をする手を速めた。みんなへの挨拶もほどほどに、二人で学校を後にする。誰かと一緒に帰るなんていつぶりだろうか。ずっと一人だったような……。そんなことを考えながら歩いていると、道端に落ちている小さな白い花をつけた枝に目がいった。



「へえ、きれい。こんな花、咲いてるところあったっけ?」



 佐奈に聞かれて、さあ……と曖昧に返しながら拾う。ほんのりとする香りが懐かしい。



「亜実、行くよー」



「……うん」



 何か大事なことを忘れている。それはわかっているのに。



 風に吹かれたわけでもなく枝が不自然に揺れる。何となく、背中を押された気がした。



「うん、行くね」

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