第6話 【第一回】ふわり独占禁止条約・締結会議

 翌日の昼休み。

 私は再び生徒会室に呼び出されていた。

 ただし今回は、私一人ではない。

 長机を囲んで、三人の天才令嬢が火花を散らしている。

 中央の上座に生徒会長の玲華様。右側に科学者の雫先輩。左側に画家のカレン様。

 そして主役(議題)であるはずの私は、なぜか部屋の隅のパイプ椅子に座らされ、お茶汲み係のような扱いを受けていた。


「これより、第一回『綿貫ふわり利用権益に関する調整会議』を開催するわ」


 玲華様が木槌(ガベル)をコンと叩いた。本格的すぎる。


「議題は一つ。彼女ふわりとの接触時間を、我々がいかに分配するか。……もちろん、生徒会業務(私の充電)が最優先されるべきだが」

「異議あり」

「異議ありよ!」


 雫先輩とカレン様が即座に食いつく。


「彼女の生体反応は、午前中の方が活発だ。よって1限から4限までは私が借り受ける」

「ふざけないで! 光の加減は午後が一番いいのよ! 昼休みから放課後までは私がデッサンするわ。もちろん、ヌードで」

「ヌードは禁止だ!」

「却下よ!」


 議論は平行線をたどっていた。

 私はお茶をすすりながら、遠い目でそれを見守るしかない。

 自分の身体のスケジュールを、自分不在で決められているこの状況。人権とは何だろう。


「だいたい、貴女たちは触り方が雑なのよ」


 カレン様が不満げに口を尖らせた。


「ふわりは高級な粘土マテリアルなの。もっとこう、指先で愛でるように触れないと、質感(テクスチャ)が損なわれるわ」

「愛でる? 非論理的だ。必要なのは圧力と密着面積だ。私は最大効率を求めて、全身タイツZOZOスーツのような拘束具を開発しようと考えている」

「やめてください!」


 私が思わず叫ぶと、玲華様が冷ややかな視線で二人を制した。


「静粛に。……仕方ないわね。ここは民主的に、時間割で区切りましょう」


 玲華様がホワイトボードに円グラフを描き始めた。

 

「まず、登校直後のホームルーム前。これは私のものよ。朝の充電がないと一日が始まらない」

「では、2限と3限の休み時間は私がもらう」と雫先輩。

「昼休みは私よ! 一緒にお弁当を食べるの。あーんってさせるの!」とカレン様。

「放課後は生徒会室で30分間の抱き枕タイム。これは譲らないわ」


 どんどん私の自由時間が黒く塗りつぶされていく。

 残っているのは、授業中とトイレの時間くらいだ。


「あの……私の自習時間は? あと体力の回復とか」

「授業中に寝ればいいわ」

「そうだ、睡眠学習機を貸してやろう」

「いや、起きてなきゃダメです!」


 その時、カレン様が私の二の腕をつんつんと突いてきた。


「ねえ、ふわり。貴女は誰が一番いいの? やっぱり、私の芸術的な指使い?」

「えっ、そ、それは……」


 三人の視線が私に集中する。

 誰を選んでも、残りの二人に殺される未来しか見えない。

 私は冷や汗をダラダラと流しながら、必死に答えを探した。


「み、皆様、それぞれ素晴らしい手触りというか……。えっと、玲華様は安心感がありますし、雫先輩はひんやりして気持ちいいですし、カレン様は優しくて……」

「……ほう」

「……ふうん」


 三人がまんざらでもない顔をした。

 ちょろい。天才たち、意外とちょろいぞ。


「わかったわ。じゃあ、基本は時間割通り。ただし緊急時(メンタル崩壊時)は、優先的にふわりを吸って良いこととする」

「緊急時の定義は?」

「『ふわりがいないと死ぬ』と思った時よ」

「毎日じゃないか」


 雫先輩のツッコミは無視された。

 こうして、悪魔の契約書『ふわり独占禁止条約』が締結された。

 署名欄に私の名前を無理やり書かされ(なぜ?)、捺印の代わりに、三人にそれぞれの頬と額へキスを要求された(なぜ!?)。


「契約成立ね」

「裏切ったらホルマリン漬けだ」

「私のモデルから逃げられると思わないでね」


 三人の天才令嬢に囲まれ、私は引きつった笑顔を浮かべるしかなかった。

 しかし、私はまだ知らなかったのだ。

 この学園には、あと二人。

 恐るべき天才――武力と知略の怪物が、まだ潜んでいることを。


 ――ウゥゥゥゥン!!


 突然、校内にけたたましいサイレンが鳴り響いた。

 窓の外、校門付近が騒がしい。


「何事だ?」

「セキュリティアラームね。……不審者侵入?」


 玲華様が眉をひそめる。

 私は窓から身を乗り出して覗き込んだ。

 そこには、黒い制服を着た集団と、一人の凛とした女子生徒が、何かを取り押さえている姿が見えた。


「風紀委員だわ」

「……皇凛子すめらぎりんこか。また大げさなことを」


 皇凛子。

 その名前を聞いた瞬間、私の背筋に悪寒が走った。

 なぜなら、彼女たちが取り押さえている「不審物」の特徴が、私の忘れてきた鞄にそっくりだったからだ。


「ああっ! 私、校門に鞄を置き忘れてきました!」

「そんなことある?」

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