第16話 それぞれの道



――――飲み処『俺はイエロー』。通称俺黄。



『カーンパーイッ!』

今日はいつの間にか社長が予約していた俺黄でヒマリさんやサポートチーム、ルミサポやイエサポも招いて飲み会だ!

今頃さまざまな店や拠点、家々で戦隊たちがお腹を空かせたイエローたちにご飯を振る舞っていることだろう。


私たちとオル黄も美味しいつまみやらご当地名物やらをいただく。


「まさか焼きまんじゅう用意してくれてたなんて!」

感動である。

「キキの涙を見てさ、元気付けようと大将が仕込みしてたんだってさ」

「そうだったんですね!オウキさん!」

てか何でレジェンドメンバーまでいるんだろう。決してマスクを取らないブラックさんとか、グリーン同士でヨウさんと語らうグリーンさんとか。


「そうそう、ラーサラも食うべ」

そう言ってキハダ先輩が不思議な料理を差し出してくる。えっと……ラーメンにコーンとか野菜を絡めているらしい。


「ん……美味しい」

一足先にスミレちゃんがちゅるちゅるしていたので私たちもいただきます。


「わぁ……何とも言えない美味しさ!ごまだれですか?」

「そうそう、他にも味付けはたくさんあるけどなー」

「めんたいこもどうぞ~~」

トキヤさんがお裾分けしてくれる。


「ん~~、ご飯に合う!」

「ほんと旨いなぁ」

オウキ先輩もオル黄たちも和やかに楽しんでいる。そしていつの間にかオジサンイエロー菊次さんも混ざっている。


オジサンレッド椿さんは社長やヒマリさんたちと楽しく飲んでて、サポたちも仲良くジュースでカンパイしてるみたい。


「ソウキさんは……」

「あっち」

キハダ先輩の指の指す先にはカウンター席。


「いやぁ、嬉しいなぁ。後輩のブルーの子と飲むの、夢だったんだよね。最近はすぐアルハラとかパワハラとか言われちゃうからさ」

「ブルーは個人主義が多いですからね」

念願のオジサンブルーとの酒盛りを楽しんでいた。


一方でホムラさんはと言えば。


「こうしてふたりで飲むのは……初めてか」

マスクを取ったレジェンドレッドは会見でも見たがどこか見覚えのある顔立ちをしている。


「……そうだな……兄さん」

今、あり得ない言葉が聞こえた。


「あの、オウキさん。レジェンドレッドさんのフルネームって……」

赤祇あかぎ篝瑠かがる。あいつら異母兄弟だぞ」

「えーっ!?初耳なんですけど!?」

メディアすらそれを取り上げたことがない。


「いや……その、家の目もあるから」

ホムラさんが恥ずかしそうに告げる。

「俺がレジェンドレッドになってからは父親は目の色を変えて度々呼びつけるが」

カガルさんが苦笑する。

「……母さんは反対するからな。あまり表では親密にできない」

そう言うとカガルさんが申し訳なさそうな表情をする。


「俺は愛人の子だから」

「そんな言い方しないでくれ……兄さん」

ぶほぉっ。腐女子としては最高に萌えるシチュなんですけどっ。


「そう言えばキキちゃん、シスターイエロー先生の同人誌でもレジェンドレッドが悩んでた。やっぱり新刊買いそびれたのは惜しい。通販即売り切れちゃったし」

「スミレちゃんったら、その話はっ」

CPのもうひとり、隣にいるんだから!


「え?お前らシスターイエローの本欲しいの?」

今オウキさんの口からあり得ない言葉が出た。


「まあお前らも頑張ってるし……2部くらいならどうにかなるんじゃないか?」

「2部くらいってどういう……」

「あれ描いてんのうちの姉貴」

まさかの弟公認の同人誌ーっ!?


「あー、でもカガルには内緒だぞ。アイツうぶすぎてエロ本も読めねえから」

それ知ってるってことは見せたことあるんすか。そして持……っ。いや、お姉さんの私物かもしれない。


驚愕してれば、何故かあっちで飲んでいたはずの社長がやって来た。


「盛り上がってるところごめんね。キキちゃんとホムラと……カガルくんもおいでよ」

「……?」

どうしてか店の外に案内されれば、そこには隊レジェの社長と……セイカさん。


「……ルミナスイエロー」

「は、はい」

今はホムラさんがいるから大丈夫だよね。伝説のホイールゴールドとシルバーコンビも立ち会いだ。


「……済まなかった」

「え……」


「俺は理想の戦隊を追い求め過ぎて、お前に嫉妬していた。ホムラに選ばれたお前に。いや……ソウキや他のやつらにも」

このひとは理想の戦隊を求めるがゆえにホムラさんを求めたのだろうか。


「ホムラがいれば、きっと俺の理想のレッドになってくれると信じていた」

「私はそうは思いません」

「何故言い切れる」

「ホムラさんはホムラさんですよ。そのホムラさん自身を見ないで理想を押し付けてるなら、理想のレッドになんてなれるはずがないです」

心の弱さはあっても、ヒーローのうちはどこまでもヒーローであろうとする優しさや強さ。だからこそヒーローの殻を脱いだら、本当のホムラさんを見てくれるメンバーじゃなきゃ……ソウキさんじゃなくてはならなかった。


「そう……なのか?ホムラ、あの時お前が俺の誘いを断ったのは……」

「当時は自分で自分のことを理解できなかった。でも今なら分かる。俺はブルーと、自分の相棒……親友になりたかったんだって」

それはまさにソウキさんとの関係性だろう。


「そうか……俺は、いや同期の特Aのブルーたちは誰も……」

ホムラさんに理想のレッドを求めるばかりで、相棒になろうとしなかったのだ。


「俺はルミナスを見ていて羨ましいと思うよ」

「セイカ」


「だから今まで求めてきた理想を塗り替えるには時間がかかるだろうけど、一からやり直して少しずつ理解したいと思う。俺が理解できなかった戦隊の形も……ルミナスイエローのことも。許してもらえるとは思ってないけど」

「許しますよ」

「え……」


「だってセイカさんは謝ってくれましたから。それなのにいつまでも許さないなんてヒーローらしくないですもん」

「君は……ヒーローとして大切なものを持っているのだろうな」

セイカさんがくすりと微笑む。


「俺はもうレジェンドには戻らない。社長の紹介で別のプロダクションに移籍して下積みから始めるよ。だからカガルさん」

「……セイカ」


「今度はカガルさんの親友になってくれるブルーを……見付けて欲しいです」

「……分かった。お前もいつか戻ってこい。お前の親友になってくれるレッドと共に」

「はい」

セイカさんは私たちに深く頭を下げると、隊レジェの社長と共に去っていく。


そして店内に戻ろうとした時、目の前に現れた黒マントに身構える。


『キョウハ、セントウヤルキアリマセーン』

え……?


『ドウヤラ、ルミナスイエローノナミダ、オサマッタヨウデース』

「お……お陰さまで」

今翻訳機がないから伝わっているかは分からないが。


『コレデワレラモアンシンシテ、シンリャク、デキマース』

いや、出来ればしないでほしいんだけど。


『ソレデハ、サラバーッ』

マントを翻せば、もうそこに黒マントの姿はない。

「何かと……律儀な悪の組織みたいですね?」

「ほんとなぁ、何なのアイツら」

「それでも俺たちが地球の平和を守ることは変わらないよ」

カガルさんの言葉にホムラさんとふたりで頷く。


「次来てもまた叩きのめすから!」

「その意気」

ホムラさんの手が私の頭をぽふりと撫でる。やっぱりこれ、安心するなぁ。


「さてと、予期せぬ遭遇はあったが……私たちもそろそろ戻ろうか。次は鍋だと言っていたからね」

「それは楽しみですね、社長」

ホムラさんが微笑み、私たちも店内に戻れば盛り上がっている。


『きりたんぽっ!きりたんぽっ!』

「シャケも美味しいぞー」

「おーい、おっきりこみもあんぞ!」

オル黄の先輩たちやオウキさんたちが呼んでいる。

各地の郷土鍋料理を少しずつ頂戴していればふと目に入る。

トキヤさんの膝枕ですやすや眠るホムラさんはヒーローからいつものホムラさんに戻れたのだと。


私もずいぶんと心配をかけてしまったから。その様子にホッと安堵を漏らし微笑ましく思えるのだった。


次の新刊もいい作品になりそう!


【完】

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発狂寸前戦隊レッド 瓊紗 @nisha_nyan_

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