「心して、ウケるがよいッ!!」――いろんな意味で。*だからやらねえっての。…そう言うはずだった。
志乃原七海
第1話「――全国より選ばれし、つわものどもよ! 夢の跡ッ!」
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### 短編小説「一日なんとか署長!」
うだるような暑さの公民館。集められたのは、国籍も年齢もバラバラな十数人。共通点は、全員が金に困っていることと、目の前に立つ暑苦しい男のせいで眉間にシワが寄っていることくらいだ。
男は、やたらと丈の短い学ランを着て、腕を組んでいる。自称・町おこしプロデューサー「魁(さきがけ)」。
「――全国より選ばれし、つわものどもよ! 夢の跡ッ!」
魁がおんぼろの演台をドンと叩く。ホコリが舞い、数人が咳き込んだ。
「貴様らに名誉ある一日! 『署長』を命名する! 心して、ウケるがよいッ!!」
ビシッと指をさされた俺、ケンジは思わず舌打ちした。日雇いバイトのつもりで来たのに、話が違いすぎる。
「あんだよ、うるせえな。いらねえわ、そんなもん」
俺の呟きは完全に無視された。魁は満足げに頷き、アシスタントらしき女性に合図を送る。配られたのは、わら半紙に印刷された今日の業務内容。しかし、その内容はあまりにもひどかった。
「おい、そこ!『死後は現金出そう?』ってなんだよ」
俺が読み上げると、周りもざわつき始める。「勤務地」は「地ごく」、「時給」は「応相談(魂)」と書かれている。
「誤字脱字ばかりじゃねーか。大丈夫か?作者?(笑)」
俺が皮肉たっぷりに言うと、魁はカッと目を見開いた。
「だ、黙れ! 貴様らのような俗物には、この高尚な企画の真意はわかるまい! これはアートだ!」
「アートで腹は膨れねえんだよ」
「よーし、ならば耳の穴かっぽじってよーく聞け!」
魁はもう一度、演台を力任せに叩いた。ミシリ、と嫌な音がする。
「貴様らの本日の任務! それは……」
ゴクリ、と誰かが唾をのむ。この狂った男の口から、一体何が飛び出すのか。
「お前ら一日! デパ地下の一日、受け付け嬢なッ!!」
「「「…………は?」」」
公民館に、間の抜けた声が響き渡った。
署長は? つわものは? 夢の跡はどこへ消えた?
「だからやらねえっての」
俺は心底呆れて、わら半紙を丸めて床に叩きつけた。
◇
……それから、一時間後。
俺は、なぜかフリルのついたエプロンをさせられ、デパ地下の試食コーナーの前に立っていた。隣では、元ヤンキーの金髪男が「あーん♡」とマダムにウインナーを差し出し、なぜか行列ができている。
「ケンジ君!声が小さい!もっとソウルを込めて!」
魁が、物陰からメガホンで指示を飛ばしてくる。うるせえ。
「へいらっしゃい!本日限定!悲しみのミートボールだよ!食わなきゃ損だぜ!」
やけくそで叫ぶと、なぜか人だかりができた。
「あら、このお兄さん面白い」「悲しみの味ってどんなかしら」
ミートボールは飛ぶように売れていく。
「フフフ……見たか、これが俺のプロデュース能力……」
魁が遠くで涙ぐんでいるのが見えた。
ああ、ちくしょう。
なんでだよ。
なんで、ちょっとだけ、楽しいんだよ。
俺は空になったミートボールの皿を片付けながら、今日の日給はちゃんと現金で出るんだろうな、と、どうでもいいことを考えていた。
「心して、ウケるがよいッ!!」――いろんな意味で。*だからやらねえっての。…そう言うはずだった。 志乃原七海 @09093495732p
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