第3話 沈黙のはじまり
わたしが彼と初めて出会ったのは、中学1年の春だった。
わたしたちの通っていた中学校は、2つの小学校から上がって来た子が通う場所。彼は、港町にある小さな学校からやって来た。
わたし通っていた小学校は、中学のすぐ隣にある学校で、彼の小学校とは一駅くらい離れていた。このせいか、よく小さな学校から来た人をからかう子や余所者扱いする先輩は、少なくともいたと思う。
4月に初めて出会った頃の彼は、わたしとは正反対で授業中によく冗談混じりの発表をする明るくて変わった人でした。正直、面白いなって思ってた。
だけど目立つ存在だった彼が、良くない悪意に目をつけられるのは時間の問題でした。
「岬、もしかしてあいつのことが好きなん?聞いてる、あの噂。斎藤あんたのこと好きだって。あんたも斎藤が好きって噂も流れてるよ。」と、クラスカーストでいう女王、涼子がある日突然部活中に呟いた。思えば、この日からでした。
わたしは、咄嗟に
「面白い人だとは思うけど。好きとかは絶対ないかな。」と返してしまった。
「だよね。あんなやつに岬は勿体ないから。絶対やめときなよ。」
この日の件で、彼を目で追いかけるようになって、彼と目が合っては、互いに逸らすを繰り返してしまった。
秋のある日、
「岬、あいつがまたあんたを見てるよ。ちょっと気持ち悪すぎ。」
この日から、彼はわたしのストーカーというからかいの対象になった。わたしも彼の前で沈黙するしかなくなった。
「うわ、また来たよ。ほら、岬、離れて。」と、廊下ですれ違う彼を煽る友達。何も言い返せないわたしは、さらに沈黙。いじめに加担している。そんな自覚はあった。
彼も沈黙して何も返さないが、わたしも出会い頭に避けるしかできず。なるべく彼を傷つけまいと、距離を取るようになっていった。
だけど、体育館を除くと校舎が1つしかない学校なものだから、階段も西と東に1つずつしかない。どうしても階段を使うので、1日に1回はすれ違ってしまう。
勿論、教室内では顔は合わさない。みんなも教室では彼について触れない。
彼からの沈黙は、やがてわたしたちの安定する距離になり、わたしの彼への罪悪感が余計に募っていった。
冬になると、彼は授業中に発表もしなくなっていた。彼の沈黙、教室に存在する嫌な雰囲気。
廊下ですれ違いそうになると、彼からフェードアウトし、顔を合わさず去っていく。
この頃のわたしたちの関係は、誰が見ても最悪だったろう。
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