第2話 線香花火は、落ちなかった
あの花火の日は、わたしの分岐点だ。
高校3年生だったわたしたちは、受験を控えていた。大学も専門学校もない町。
だから、いずれはバラバラになることが決まっていた。
この日、わたしは彼に会いたくて花火に参加したんだ。
勿論、仲の良い陶山茉里ちゃんから誘われて参加したと言えば、何かが起きても特段の口実は必要なかった。結局、何も起きなかったけれどね。
他のメンバーはみんな同じ小学校出身だから、場違いなわたしがいたら彼は驚くだろう。
ただ、わたしの存在を気にかけてくれるだけで十分だったのかもしれない。
中学時代に彼を傷つけてしまってから、わたしの中には罪の意識が生まれた。そのせいか、廊下ですれ違う度に彼は特別に気になる存在になっていった。
そうだ、彼がわたしのことを好きだという噂が広まったのは、中学1年生の秋頃だった。
彼の名前は、斎藤葵。
同じクラスにいるちょっと変わった面白いことを話す男の子。直接話すような接点は、全くなかったから、変に意識するようになったのはその噂のせいだ。
これまでに誰かに好きだと言われたことはなかったから、嫌な気はしなかった。
そんなわたしは、臆病で。つい、彼を目で追いかけてしまう。気になるけど、目が合うと歯痒くなって目を逸らす。
次第にわたしは、露骨に彼を避けるようになった。
そんなわたしの行動が面白かったのだろう。当時仲が良かった、北山涼子ちゃんがわたしたちの避ける様子を囃し立てるようになった。
「また、斎藤が見てるよ。本当に岬が好きなんじゃねー。」
「偶々だよ。」
このみんなに囃し立てられる感じが嫌だった。そ内、彼も露骨にわたしを避けるようになった。
この気持ちが、恋愛感情なのか贖罪なのか。わたしは、確かめて見たかった。
やっぱり彼は余所余所しい。
「この花火もらっていい?」
「お、うん。」
やはり、彼はわたしに壁を作っている。防波堤を照らす打ち上げ花火を眺めながら、そっと彼の方に目を向けた瞬間、彼と目が合ったような気がした。
だけど、この日が彼と会った最後の日になった。
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