第27話:敗北を知らないエースの背中をずっと追いかけていた

 俺は小さいときから誰にも負けないと思ってた。かけっこも速かったし、幼稚園のジャングルジムのてっぺんを最初に制覇したのも俺だった。


 習いごともたくさん始めた。


 そろばん、水泳、少林拳法、体操、塾。どれも、それぞれのグループでは俺は一番だった。


「日向壮太はここにいるぞ!」


 そんなことを夕陽に向かって叫びたい気分だった。


 俺はこのとき多分、思い上がっていたと思う。お父さんも、お母さんも、おじいちゃんも、おばあちゃんもみんな俺のことを褒めてくれていたし、どこでもなんでも俺は一番だったから。


 子分も沢山いた。誰も俺に追いつくことはおろか、肩を並べるやつもいなかった。


 多分、「神に愛された男」みたいに思ってた。人生イージーモードだと思っていた。他人のことなんか目に入ってなかったくらいに。


 そんな俺の思い込みの世界を破壊する存在が現れたのは、幼稚園の年長のころだった。元々俺の新しい子分だった。……子分のはずだった。


 彼は「御厨 悠」と名乗った。彼はIQが160もあるのだという。俺のそれより数値が上だった。すぐに彼はエースと呼ばれるようになった。


 勉強はすぐに追い抜かれて彼がやってた「算数」はそのときの俺にはもうなにをしているのか分からなかったんだ。


 その後は勉強したけど、そいつには全然追いつけなかった。それどころかどんどん離されて行った。


 だけど、あいつは1番なのにいつも辛そうだった。


 俺だったら鼻高々に家族や親戚、友達やその友達にも自慢していただろう。


 あいつを見ていたら、これまでの自分が恥ずかしくなった。


 俺は井の中の蛙だったんだ。


 それからは、やつをもっとよく観察するようにした。「あんなに賢いのに、どうしてあんなに悲しそうなんだろう」と子供ながらに心配すらしていた。


 多分、誰も追いつけないから一人で辛いんだと考えた。


「じゃあ、俺があいつのライバルになってやる! 『好敵手』と書いて『ライバル』と読むライバル!」


 俺はあいつを追いかけた。


 そろばんも、水泳も、少林憲法も、体操も全部やめた。新しく始めたピアノだってやめた。


 全力であいつを追いかけて、なんとか背中だけでも掴もうとした。


 ***


 それからどれくらい頑張っただろう。どれくらい頑張り続けただろう。


 俺とあいつの距離は全く近づいてなかった。それどころか、益々離されて行った。


 あいつはどこまで行くんだ。そう考えていたけど、俺はやつもどこかで限界を迎えると思っていた。それくらい俺の世界は狭かった。


 ***


 小学校になったある日、あいつはいなくなった。海外に行ったって聞いた。俺が「海外」の意味を理解するころにはもう、絶対に追いつけない存在になっていた。


 俺は「勉強一筋」ってのをやめた。


 人にはそれぞれにあった「役割」があるんだ。


 俺は、何ができるだろう勉強もスポーツもできる。文武両道を極める。そして、これからは友達を大切にしよう。人を助けられる人になろう。このポッカリ開いた穴はその後の俺の生き方を決めた。


 それからどれくらいが経っただろう。


 再び俺はあいつと会った。しかも、高校で。入学してから約1か月して、クラス内の人間関係が固まり始めた頃に転校してきやがった。


「は、初めまして、みみ、御厨 悠です……」


 完全に俺のことは覚えてなかった。


「日向壮太です。よろしくな」

「ど、どうも……」


 挨拶しても全く反応なし。こっちは、名前まで名乗ったのに。


「家は商店街の近くじゃない?」

「……あ、はい。そうです」


 これでもダメか。更にヒント!


「俺ん家もその辺。昔もそこら辺に住んでなかった?」

「あ、はい……」


 まだ思い出さないのかよ!


「俺もこの辺 住みだから。幼馴染みたいなもんだな!」

「え。あ、はい……」


 俺は知ってる。こいつは俺より格上の存在だ。俺が逆立ちしたって追いつけないやつ。


 でも、俺は俺のやり方でこいつともう一度勝負してみたい。


 俺のことを「友達」だって認めさせたい!


「好敵手」と書いて「友」と読む!


 ところが、こいつは心の中の炎が消えていた。


 言ってみたら、抜け殻。燃えカス。


 そんなやつに勝ってもそれは本当の勝利じゃない。


 俺は御厨をサポ-トした。クラスのやつと馴染めるように頑張ってみた。でも、まるっきり興味がないみたいだった。


 本気のお前になってくれ!


 闘争心むき出して戦ってくれ!


 その上で俺はお前に挑戦してこそ意味があるんだ。


「なあ、御厨」

「なんですか?」


 俺はある日、御厨に持ちかけた。学園祭も終えて、やっとクラスのやつらとも打ち解けてきた。今こそ本気を出してくれ。お前のポテンシャルはこんなもんじゃないはずだ。


 その上で、俺はお前を超える! IQでは勝てなくても、学校の定期テストという限られたルールの中の勝負なら勝てる!


「今度のテスト勝負しないか?」

「え?」


 まだ、本気じゃない顔。じゃあ、お前が本気の本気になれるようにケツに火をつけてやる!


「今度の定期テストで俺が勝ったら、俺は天宮さんに告るよ」

「……」


 あっけにとられている表情だった。どうだ、驚いたか?


「俺は次のテストまで部活も休んで全力で勉強する。俺と本気の勝負をしてくれないか!」

「……わかった。日向から来てくれるなら喜ばしいことなんだろうけど、弁当を無駄にはできないですからね」


 天宮さん!? 弁当? なんの話だ!? テストは10教科を3日間で行われる。昼食の心配をしてるってことか!? まだまだ余裕ってか!? 今度こそ、俺が一番だ!


 ……って、結局 俺はなにがしたいんだ! 自分で自分の行動が分からない!

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