第31話:実は学年1位のギャルが、70点のフリした元天才に恋をするまで
ここは御厨悠と天宮華恋の学校の屋上。時は例の天宮華恋の告白の数日後である。本来立ち入り禁止の場所なのだが、今日は意外な二人がいた。
「やっとIQ160の天才に勝ったな。とうとうあいつを落としたんだから」
国東は階段室の屋根の縁にに立膝で腰かけてタバコをふかしていた。もう片足はブラブラとさせていた。
「落としたとか言わんとってよ」
階段室の
「ほんとは、お弁当は完成しないはずやったし、テストも全教科100点とか さすがにあり得んと思っとった」
「え? じゃあ、予想外ってこと?」
国東は少し意外だった。
「『初恋は成就しない』ってジンクスやないけど……。憧れだけじゃ成就せんやん?」
「憧れは一旦忘れましょう!」
「どこの大谷翔平なん!」
国東は少し揶揄ったというよりは、「青春ザツワチャドゥ」に付き合うには 自分は大人になりすぎていることに気が付いたようだった。
「私はミックを落とせんはずやった。やけん、ずっと料理を おしえてもらおうと思っとったっちゃん」
国東は「あれっ?」と思って訊いた。
「お前はちゃんとハンバーグと たまご焼きをマスターしてただろ」
「悠くんの教え方がうますぎるっちゃんね。不器用な私がお弁当を作れるようになったとよ! あんなに一生懸命教えてくれて、『美味しい」とか あんな笑顔で言われたら、また好きになるに決まっとろーもん!」
天宮華恋は少し不満そうな表情をした。
「恋は好きになったほうが負け……か?」
「悠くんと付き合えるっちゃけん、私、負けでいいっちゃん~♪」
「へいへい、ご馳走様」
今のその乙女の顔を見たら御厨のやつ どんな顔するんだろうな、と天宮華恋に見えないのをいいことに一人 にやつく国東だった。
「で、どうなんだ? 御厨は。レモンの味はしたか?」
「レモン? ハンバーグにはレモンとか使わんよ? 悠くんはねぇ……控え目に言ってさいこー!」
ここで国東は2本目のタバコに火をつけた。
「ふーーーーーっ」
もう勝手にやってくれ、の心境だった。
「お前、まだアインシュタイン倶楽部 現役なんだろ? 最近じゃ『クイーン』って呼ばれてるらしいじゃん」
「私はフレディーマーキュリーやない!」
プイと横を向いたのは、国東には見えなくても容易に想像ができた。
「まあ、俺の独り言だけどな。階段室の上から下界を見ていた俺の推測の答え合わせに 少しだけ付き合ってくれよ」
「……」
無言を国東は肯定と受け取った。
「絶対に敵わないエースが海外に飛んで、次にクイーンがトップになったとして、勝ち逃げしたエースの記録は塗り替えることができない。まして、初恋の男だから忘れることもできない」
「……」
国東は空を見上げた。ちょうど飛行機雲が頭の上に2本の線を空のキャンバスに描いているところだった。
「ギフテッドなんて言われてるやつは、IQも高くてよさそうだけど、人格破綻者も多いし、日常生活に支障をきたすほど人間関係で苦労するやつは多い。どこかが秀でてる分、どこかが劣ってる。ある意味、神様は平等なのかもな」
「私も悠くんも違う」
天宮華恋は自分のギャルらしくカラフルで長い爪を見ながら答えた。
国東はタバコの煙を肺に大きく吸い込んでからゆっくり吐き出し、続けた。
「テストで勝ち負けをしてると、点数で出る分、分かりやすくてエグいんだよな。勝った方は気分がよくても、負けた方は悔しさと憎しみしか残らない。友達なんてできる訳ない。まあ、エースも海外に飛んだくらいだしな」
携帯灰皿に灰をポンと一つ落とした。
「そんなとき、賢い少女は自分なりの方法を見つけた。彼女はテストで100点を取れる能力は持ち合わせていながら、わざと1問か2問、間違って全教科100点になることを避けていた。大体は学年1位だけど、ときどき3位くらいまで落ちることもあった。そうして人と真正面から ぶつかるのを避けて敵を作らずにいた」
「……」
天宮華恋は何も答えない。
「ガリ勉はダメだ。クラスの中で地位が低いから いじめられてつぶされる。クラスのカーストの中で一番上なのは陽キャ。そして、ギャルだ。陽気なギャルは一番強い。多少、傍若無人にふるまっても周囲は『ギャルだから』と諦めることだってある」
ここで国東は階段室の屋根に立ち上がって両腕を飛行機雲の空に伸ばして大きく伸びをした。
「そいつは陽キャなギャルに擬態した。しかも、友達を大切にする良いギャルだ。困ってるやつがいたら こちら側から助けたりもする。成績は完璧じゃなくて、わざと数問 間違う程度には手加減した。しかも、周囲のやつに勉強を教えてただろ。お前のグループは成績がいい。だから、教師たちもお前たちの服装にあまり厳しく言わない」
壁に寄りかかったまま、天宮華恋は襟の具合を直した。
「ギャルは一目でギャルと分かるから、そのファッションを研究していくうちに仲間内でファッションリーダー的な立ち位置も得た。そいつは器用にも、そんな不器用な方法で『孤立』と『相手の敵対心』から自分を守った」
これまで誰にも気づかれていないと思っていたことが、急に丸裸にされて天宮華恋は足元の小石を適当に蹴ることくらいしかできることがなかった。
「そんな中、あいつが日本に帰ってきた。そして、この学校にきた。お前たちの元に。かつてのエース、御厨悠だ」
「……」
天宮華恋は頭上からの言葉に壁に もたれかかったままピクリと反応した。
「あいつは海外で大学院まで卒業して、やり切った感じで帰国した。海外にいる間に研究室でいくつかの特許も取ったらしい。そんなやつが選んだのが、『普通の高校生活』だ」
「すごいよね。私は志乃さんか聞いた。志乃さんは私のこと見て すぐにアインシュタイン倶楽部のときに仲良くしていた私だって分かったみたい」
彼女は前のめりで嬉しそうに応えた。
「だから、会ったその日に志乃さんのアカウントゲットできたのかよ」
「悠くんのことを色々心配してた。大人たちの都合で勉強漬けにして、海外にまで連れて行って……志乃さん後悔してるみたいだった」
色々聞いていたのだろう、悠の母親、御厨志乃の気持ちを考えると 天宮華恋としては志乃と色々話して仲良くなれたことを手放しに喜べなかった。
「あいつは興味あるもん以外は全く脳みそに届かない。お前はギャル度を増して、さらにギャルギャルして、しかも成績一番。学校内の男子の人気も一番。そうまでしてあいつの脳みそにお前の情報をねじ込みたかったってのは俺の考えすぎか?」
「ふ〜んふふ〜ん♪」
急に鼻歌を歌い始めて彼女は聞こえない振りをした。
「それよりいいのか? 多分、昔、アインシュタイン俱楽部でお前と日向と三人一緒だったこととか、あいつ絶対覚えてないぞ!?」
「昔は昔。別に気にしとらん」
天宮華恋は なんでもないことのように答えた。
「まあ、お前から見たら御厨は格上な存在のくせに全教科ぴったり70点で誰からも見向きもされない。全てにおいて目立たない悠が逆にまぶしく見えた。一人でも誰にも媚びずに、誰ともぶつからずに、可もなく不可もなく。すっごく力を抜いて……。自分はこんなにも全力で なんとかやってるのに!
昔からすごいと思っていたのに、今でもすごい……ってとこか?」
「……」
また無言だった。どうやら都合の悪いことは聞こえない作戦を身に付けたようだった。
「もう、寒みいな。ここでタバコ吸えないと他がないんだけど……」
国東は少しどうでもいい愚痴を挟んで話を続けた。
「クイーンは最高に最大の作戦を練った。目立つことが嫌いな御厨に 人知れず近づいて、会う回数を増やす。会話を増やす。共同で何かを成し遂げる。相手のことを知る。自分のことを伝える……」
指を折って天宮華恋が積み重ねてきた作戦を数える。
「不器用なのに一生懸命料理をする姿を見せて、最初のへたくそ料理から、完璧な弁当に仕上げるまでの工程を一番の特等席で御厨に見せた。あれはポイントが高かったんだろうなぁ」
「違うとって。お弁当は完成せん予定やったとってー。不器用なの知っとーし、自分で料理ができるとか考えたこともなかったし……」
ここで天宮華恋も空を仰いだ。そして、ため息を一つついて続きを話した。
「だけど、悠くんは優秀な料理の先生でもあったんよねぇ。料理も面白くなってきたし、自分が作ったもんが『美味しい』と感じる瞬間ができた。味見で悠くんが食べて『美味しい』とか言ってくれたけん、身体の芯から しびれるほど嬉しかったっちゃん」
一拍おいて全てのことを思い出し、国東は頭の中でトータルのジャッジメントをしてみた。
「作戦勝ちだな。さすがアインシュタイン倶楽部の現役クイーン」
「単なる憧れやったとって。憧れは恋じゃない。そんなんは成就せん。知っとった。でも、前から好きやったのに、今の悠くんも好きになったっちゃん。しょうがないやん」
天宮華恋は頭上にいる国東に不満そうに答えた。
「天宮はあいつに認識して覚えてもらうためにギャルになった。日向は良いやつ代表になって認識させた。あいつも罪なやつだな。日向も天宮もそんなに全力とか、あいつ どんだけモテるんだよ。いいなぁ〜」
国東は天宮華恋にも聞こえないくらいの声で呟いた。
「屋上へのカギは悠くんだけじゃなくて、私にもくれたのは応援やったっちゃろ? 自分も悠くん大好きなくせに。不器用すぎるっちゃけど……。ふふ」
今度は 国東に聞こえないように天宮華恋は呟いた。
「いいなぁ、青春ザツワチャドゥ。今度 俺にも弁当作ってくれよ~」
「私のお弁当は 悠くんだけのものやけん、ダメー♪」
〈了〉
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【感謝!カクコン80位】学校で一番人気のギャルが一番目立たない陰キャボッチの僕に恋愛相談を仕掛けてきた 猫カレーฅ^•ω•^ฅ @nekocurry
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