第51話 サルモネラン出没!

 百八十二:東門への疾走と腹部の異変 🏃💨

​ 本郷 猛は、大西陸が命を賭して稼いだ時間を利用し、代々木公園の雑踏の中を東門目指して疾走した。

​「あと少しだ、大西。必ず生きて再会する!」

​ リュックを背負い、人混みを縫うように走る本郷の耳には、南門方面から聞こえる、短く鋭い銃声と、何かが砕けるような音が届いていた。大西陸が、黒服の追跡者たちと激しくやりあっている証拠だった。

​ しかし、その時、本郷の腹部に激しい痛みが走った。それは、親知らずの痛みとは全く異なる、内側から体を締め付けるような、急激な吐き気と腹痛だった。

​「ぐっ……なぜ、今……」

​ 彼の体は、路上生活で得たわずかな食事と、極度のストレス、そして何よりも、この公園の環境に潜む**「見えない敵」**に侵されていたのだ。

 百八十三:サルモネランの襲来 🤢

​ 腹痛に耐えながら、本郷が公衆トイレの脇を通り過ぎようとした瞬間、汚れた水たまりから、奇妙な変異体が飛び出してきた。

​ それは、体表がぬめぬめとした粘膜に覆われ、無数の鞭毛状の触手が蠢く、嫌悪感を催す姿をしていた。その変異体こそが、結社の残党が環境中にばら撒いた、**細菌系の変異体「サルモネラン」**だった。

​ サルモネランは、接触した人間に、強力な**食中毒症状(激しい下痢と嘔吐)**を引き起こすように設計されていた。その目的は、広範囲の無力化と、人混みの中での暗殺だった。

​「ゲホッ……この吐き気は、こいつのせいか!」

​ サルモネランの体から放たれる病原性変異ガスが、本郷の口と鼻腔を襲った。本郷は、一瞬で脱水症状と、制御不能な腹痛に襲われた。

 百八十四:最悪の戦闘環境 🚽⚔️

​ 腹部の激痛と吐き気で、本郷はまともに立てない。公園のトイレの壁に手を突き、彼は必死に耐えた。

​「くそっ、この状態で、どうやって……!」

​ サルモネランは、本郷の弱体化を見て、粘液状の触手を伸ばし、襲いかかってきた。本郷は、ナノマシン制御端末を装着した右拳で、辛うじて触手を叩き落とした。

 ​この変異体は、本郷がこれまで戦ってきた**「力の変異体」とは全く異なる。戦闘能力ではなく、「病の苦痛」**を媒介する、最も卑劣な敵だった。

​ 本郷は、内臓がねじれるような激痛の中で、**『戦闘』と『生理現象の制御』**という、二重の極限状態に陥った。

​(俺は、白血病という*『血液の崩壊』を救ったのに、今、自分の『内臓の崩壊』*に負けるのか!)

 百八十五:バイクへの最後の五歩 🏍️💨

​ サルモネランは、再び汚泥を撒き散らしながら、本郷の足元を狙ってきた。

 ​本郷は、腹痛で屈む体を必死に持ち上げ、東門の駐車場に停めてある**『古い型のバイク』を目視した。バイクは、あと五歩**ほどの距離にあった。

​彼は、残された力をすべて脚に集中させた。

​ 一歩! 激しい腹痛で視界が揺らぐ。サルモネランの粘液が作業服を汚す。

​ 二歩! 触手が本郷の足首を掴む。本郷はそれを振り払うために、強化グローブの低出力電流を流し込む。

​ 三歩! サルモネランは怯むが、本郷の口から、嘔吐感がこみ上げる。

​ 四歩! 駐車場に到達!

​ 五歩! バイクに飛び乗り、鍵穴に手を伸ばした——

​ 本郷は、エンジンをかける直前、サドルに腰掛けたまま、顔面蒼白で激しく喘いだ。

​ 東門の遥か南側から、黒服の追跡者たちが、バイクのエンジン音を感知し、動き出しているのが見えた。

​ 本郷は、腹部の激痛で意識が飛びそうになりながら、アクセルを回した。

​「大西……俺は……逃げる!そして、必ずこの**『病の残滓』**を……断つ!」

​ 改造された高性能バイクのエンジンが、公園の静寂を破って唸りを上げた。本郷は、汚れた公園を、猛烈な下痢という極限の苦痛を抱えたまま、高速で駆け抜けた。彼の顔は**『戦闘者』の鋭さを保っていたが、その姿は『病の苦痛』**に苦しむ、一人の人間そのものだった。

​ 本郷 猛は、この極限の生理的苦痛に耐えながら、追跡者たちと、サルモネランの汚染から逃げ切ることができるでしょうか?

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