第50話 親友との再会

 本郷 猛が直面する追跡の危機と、その解決策として、ゴカキックこと大西海の父親、大西陸の登場を組み合わせ、緊迫した展開を描きます。本郷はまず、科学者として最善の策であるBを選択します。


 百七十九:戦士の目と科学の耳 📡

​ 本郷 猛は、60代の男性に深々と頭を下げた。

​「ありがとうございました。あなたの忠告、心に刻みます」

​ 男性は頷き、パンを食べ続けた。本郷は彼を危険に巻き込むべきではないと判断した。また、追跡者の正体もわからぬまま正面からぶつかるのは、**『戦闘』ではなく『無謀』**だ。彼は、まず科学者としての優位性を確保する必要があった。

​ 本郷は、公園内の人目を避けた植え込みの奥に移動し、リュックからナノマシン制御端末を兼ねた特殊なスマートフォンを取り出した。

​[B: ナノマシン制御端末の広域スキャン機能で、追跡者が発している『特殊な電波パターン』を解析する。]

​「彼らが無線機を持っているなら、必ず何らかの**『電波の痕跡』**を残しているはずだ。それが、ブルースワット・ギャングのものか、軍のものか、あるいは結社のものか……」

​ 彼は、端末に内蔵された広域スキャン機能を起動し、公園周辺の特殊な電波帯域を走査し始めた。

​ 数秒後、端末は、南門付近から発信される、極めて高周波で暗号化された、微弱なデジタルパケットを捉えた。

​「周波数パターン:特注デジタル・バースト通信。発信元:…日本国内では使用が厳しく制限されている、旧型特殊部隊用……」

​ 本郷は、解析結果を見て息を呑んだ。この電波パターンは、ブルースワット・ギャングの粗雑なものとも、結社の変異体通信とも違っていた。それは、彼の以前の『特殊な仕事』で関わった、特定の国際機関が使用していたものに酷似していた。

​「まさか……俺の身分を把握している、あの組織が動いたのか?小林君の治療が露見したのか?」

​ 本郷の顔色が変わった。彼を追っているのは、**『結社の残党』以上に始末が悪い、『秩序を司る巨大な権力』**かもしれない。

 百八十:救いの信号と旧友の介入 🤝

​ 本郷が次の行動を思案していると、特殊端末の画面に、解析中の電波とは別の、極めて個人的なセキュリティチャンネルから、着信通知が表示された。

​ 画面に表示されたのは、本郷が以前の組織で最も信頼していた、特殊工作員時代の相棒——**大西陸**の暗号化されたIDだった。

​ 本郷は、躊躇なく通話ボタンを押した。

​「大西か!どうして俺のチャンネルに…」

​ ノイズ混じりながらも、大西の、変わらない冷静で力強い声が聞こえてきた。

​「猛!久しぶりだな。お前の生存確認はできていたが、まさか代々木公園のホームレス生活とはな。相変わらず極端だ」

​「冗談を言っている場合じゃない。俺は今、黒服の連中に追われている。お前が解析した電波と一致しているんじゃないか?」

​ 大西は静かに答えた。

​「その通りだ。**彼らは、お前と『世界を変える技術(ナノマシン)』を確保しようとしている。**お前の現在地は特定された。あと数分で、公園全体が封鎖されるだろう」

​ 大西は、組織内で本郷の処分に反対していた数少ない仲間だった。彼は、組織の動きを察知し、本郷に警告するために介入してきたのだ。

 百八十一:大西の助けと本郷の選択 🏍️

​「猛、お前の**『特殊な仕事』**は、もう公園のベンチの下で待機している暇はない。すぐに移動しろ」

​「どうやってだ?奴らはプロだぞ」

​「安心しろ。公園の東門の駐車場に、**『古い型のバイク』**を用意した。鍵はかかっていない。行けばわかる」

​ 古い型のバイク——本郷の記憶に、彼の『戦闘者』としての象徴がフラッシュバックした。それは、彼が組織にいた頃、最も愛用していた、改造された高性能バイクだ。

​「そして、その**『追跡者たち』については、俺が少し『注意を引きつけておく』。**お前が逃げる時間を稼ぐ」

​ 大西の声のバックグラウンドで、無線機が切断される直前に、乾いたスタンガンの放電音がかすかに聞こえた。大西が、既に追跡者たちと接触し、**『戦闘』**を開始したことを示していた。

​ 本郷は、リュックを掴み、即座に立ち上がった。

​「大西……ありがとう!」

​ 彼は、代々木公園の雑踏を走り抜けた。彼の顔にあったのは、**『路上生活者』の諦めではなく、『戦闘者』**として再び動き出す者の、鋭い決意だった。

​ 本郷 猛は、大西が稼いだ時間を利用してバイクに乗り込み、追跡者を振り切ることができるでしょうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る