第43話 ブラックファイブ
百五十九:治療完了と脱出の決意 🟢
本郷 猛は、点検口の奥で、親知らずの激痛を耐え抜いた末、ついに桑田 洋の治療完了を確認した。彼の顔には、安堵と、激痛による疲労が混じった汗が流れていた。
「桑田君、君はもう大丈夫だ。君の血液は救われた。もう、**『病の苦痛』**をエネルギーに変える必要はない」
本郷は、桑田の体をそっと壁に預けた。彼は、もはや背負うべき「患者」ではなく、守るべき「回復中の人間」となった。
通路では、デュアル・リーパー、郡山、そして熊による三つ巴の戦いが激化していた。熊は氷の壁を突破し、郡山は頭痛で放出した氷結で水路を滑りやすくし、デュアル・リーパーはそれを逆手に取って高速移動しながら二人に弾丸を浴びせている。この熊は、かつて結社が五霞で実験的に放逐した**「ブラックファイブ(黒の五因子)」**の変異体が生態系に溶け込み、地下水路を辿って凶暴化したものだった。
本郷は、この混乱を利用するしかなかった。親知らずの痛みが彼の思考を鈍らせるが、彼はその痛みを**「生きている証」**として受け入れ、行動を開始した。
百六十:グリーンベレー、地下水路に降下 🐸
その時、下水道の遥か上部、地上のマンホール付近から、ワイヤーが擦れる音が響いた。
静かで、訓練された動き。それは、デュアル・リーパーや結社の残党の、粗暴な動きとは全く異なっていた。
「状況確認。変異エネルギー反応、高レベル。戦闘音、発生。対象エリアを確保する」
英語による無線交信とともに、数名の兵士がワイヤーを伝って次々と地下水路に降下してきた。彼らは、暗視ゴーグルを装着し、最新鋭の装備で武装した、米陸軍特殊部隊**「グリーンベレー」**だった。
本郷は驚愕した。
「なぜ、アメリカ軍の特殊部隊がここに……結社は、国際的な介入を招いたのか?」
グリーンベレーの目的は、日本政府や警察では対応不能な「変異体の脅威」に対する、「極秘の国際介入」だった。彼らは、結社が残した「五霞変異体の残滓」、すなわちブラックファイブや、それに付随する変異現象(郡山)を処理するために派遣されてきたのだ。
百六十一:処刑人の判断と混乱の拡大 💥
グリーンベレーは、変異エネルギーを最も強く発する郡山と、その場にいる**熊(ブラックファイブ変異体)**を最優先の排除対象と見なした。
「ターゲット確認。高熱反応変異体(郡山)、及び異常野生動物(ブラックファイブ)。即時排除!」
特殊な消音器を装着したアサルトライフルから、正確な対変異体用徹甲弾が発射された。
一発が熊(ブラックファイブ変異体)の肩に命中し、熊は咆哮を上げて崩れ落ちた。もう一発が郡山の側頭部を掠め、郡山は頭痛とは別の、強烈な恐怖に襲われた。
デュアル・リーパーは、グリーンベレーの出現を見て、即座に判断を下した。
「面倒な**『正規軍』が来たな。これ以上の戦闘は不利。『商品』**は逃したが、俺の命が優先だ」
彼は、氷で滑る通路を逆利用し、グリーンベレーの火線が集中する前に、素早く水路の奥へと身を隠した。
百六十二:本郷の最後の賭け 🩺
本郷 猛は、この**「国際的な介入」が、桑田を隠す最後のチャンスだと悟った。グリーンベレーは、「変異体」を排除することはできても、「単なる負傷した人間(桑田)」や「治療中の科学者(本郷)」**を、すぐには標的にしない。
本郷は、親知らずの痛みを無視し、点検口から飛び出した。彼は、両手を高く挙げ、グリーンベレーの隊員たちに向かって叫んだ。
「待ってくれ!私は日本の研究者だ!彼は、病の治療中の人間だ!」
本郷は、自身が科学者であり、桑田が戦闘不能な人間であることを示すため、桑田のリストバンド型センサーと、ナノマシン注入器を証拠として掲げた。
彼の顔は、激痛と疲労で歪んでいたが、その目には、**「生命を救う者」**としての強烈な意志が宿っていた。
グリーンベレーの隊長は、本郷と桑田の非戦闘的な状態を見て、一旦銃を下ろすよう指示した。
「メディカル・チェック。対象の負傷を確認。戦闘員ではない」
本郷の戦いは、ついに**「力の戦闘」から、「科学と国際法による交渉」**という、彼の専門分野へと移行したのだった。
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