第29話 コロナ再来

 百五:静かなる脅威の再来 🦠

​ 日野 篤が自身の健康を厳しく管理し、ノーズ・ブレイカーが地道な活動を続ける平和な日々が続いていた。しかし、冬の終わりが近づいた頃、世界は再びコロナウイルスの新たな変異株の波に見舞われた。

​ ニュースは連日、感染者の急増を報じ、社会に再び不安が広がった。特に、発熱や倦怠感を伴うこの変異株は、ヒートマンの変異トリガーと直接結びつく、最も危険な脅威だった。

​ 日野は、会社に出勤するたびに、体温計を握りしめ、極度の緊張状態にあった。マスク、手洗い、消毒。彼は、誰もが実践する感染対策を、**「世界の危機を防ぐための、最も重要なヒーロー活動」**として遂行した。

 百六:日野の極限と本郷の危機感

​ 日野は、自身の体温が36.8℃を超えるたびに、全身の毛穴が開くような恐怖を感じた。もし、インフルエンザの時のように40℃近い高熱を出せば、彼は理性を失った炎の怪物**となり、医療崩壊寸前の地域に、さらなる大災害を引き起こす。

​ 本郷 猛もまた、この状況に最大の危機感を抱いていた。

​「これまでの敵は、個別の**『苦痛』だった。だが、コロナは『社会全体の病』**だ。誰もが感染し、誰もが日野君のトリガーになり得る」

​ 本郷は、急ピッチでノーズ・ブレイカーのサポートシステムを改良しつつ、日野に対して**「タイレノール(解熱剤)の常時携帯」と、「微熱が出た瞬間の即時連絡」**を厳命した。しかし、コロナ禍では、薬局から解熱剤が消え始めているという新たな問題も発生していた。

 百七:オフィスでの攻防 🌡️

​ ある日、日野の勤めるオフィスで、ついに感染者が出た。会議室で咳き込んでいた同僚が、検査の結果、陽性と判明し、オフィス全体に緊張が走った。

​日野は、同僚との接触を徹底的に避け、自分のデスクで体温を測った。

​ 36.9℃。

​ 平熱の範囲内だが、昨日よりもわずかに高い。彼は、**「ヒートマンになる」**という恐怖と戦いながら、パソコンに向かう。

​ その瞬間、別のデスクに座っていた同僚の一人が、突然激しく咳き込み、顔を赤くして席を立った。その同僚もまた、発熱の初期段階にあったのだ。

​ 日野のライダー・スコープ代わりの体温計が、隣の席からの**「熱の波動」**を感知した。

​「まずい!このオフィスから二体のヒートマンが出たら、ビルごと蒸発する!」

 百八:無変身の戦い

​ 日野は、自らの感染を防ぐと同時に、同僚の体温上昇を止めなければならないという、二重の使命を負った。彼は、本郷から教わった知識を思い出した。「急激な体温低下は変異を抑制する」。

​ 日野は、スーツのポケットに忍ばせていた冷却ジェルシートと、わずかに残っていたタイレノールを掴んだ。

​ 彼は、高熱で苦しみ始めた同僚にマスク越しに駆け寄り、額に冷却ジェルシートを貼り付けた。

​「大丈夫ですか!深呼吸を!体温を上げないでください!」

​ その時、日野の体温が37.0℃に達した。全身の細胞が、「変身しろ」と叫び始める。彼の口の奥が熱くなり、炎が噴き出す直前の灼熱感**が走った。

​ 日野は、自らの口をマスクの上から強く押さえ込み、歯を食いしばって炎を必死に抑え込んだ。

​「ヒートマンには、ならない! 俺の不摂生で変身するのは終わりだ!コロナなんかで、絶対に負けない!」

​ 彼は、自らの変異衝動と戦いながら、同僚にタイレノールを渡し、「感染症対策」という名の、最も静かで、最も命がけのヒーロー活動を遂行し続けたのだった。本郷 猛は、この日野の奮闘を、離れた場所から通信で聞きながら、彼の**「変身を拒否する意志」**こそが、真の英雄の資格だと深く確信するのだった。

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