第27話 鎮火
九十七:ダブル・ヒートマンの出現
小山駅近くのオフィスビル内。消防の放水は続き、凄まじい水蒸気が視界を奪っていた。会議室で暴れていた**ヒートマン(日野 篤)は、水流と高熱の衝突により、さらに体温を40.5℃近くまで上昇させていた。
その時、廊下でうずくまっていた同僚の木村の体からも、白い蒸気が噴き出した。インフルエンザによる高熱と、ヒートマンの熱波による過度のストレスが、彼の変異トリガーを超えたのだ。
ゴオォッ!
木村もまた、青い炎を纏ったヒートマンへと変貌した。彼は、日野とは違い、極度の疲労と関節の激痛に支配されており、その動きは緩慢だが、破壊力は劣らない。
二体のヒートマンが、火災と蒸気の中で対峙する。彼らは理性を持たず、ただ**「体内の苦痛」**を解消するために、炎を放ち続けた。ビル内の酸素は急速に消費され、状況は絶望的となった。
九十八:本郷、炎の中へ
その頃、本郷 猛は、消防の規制線を突破し、燃え盛るオフィスビルの裏口へとナナハンを乗り入れた。彼は、耐熱ブランケットと酸素マスク、そしてタイレノールの錠剤を満載した特殊な射出ピストルを装備していた。
彼は小田林で逃げたことを決して忘れなかった。**「人間の悪意」からは逃げても、「人間の苦痛」**からは逃げないと誓ったのだ。
「二体同時か……!タイレノールを口に入れ、体温を37.0℃以下に急速に下げるしかない」
本郷は、炎と水蒸気が充満するビル内部へと突入した。彼の目標は、理性を失ったヒートマン二体の口に、正確に解熱剤を射ち込むことだ。
九十九:解熱剤と冷却ジェルの連携
本郷は、熱と蒸気でほとんど視界がない中、ライダー・スコープの熱画像センサーを頼りにヒートマンのいる会議室を目指した。
会議室に到着した本郷は、二体のヒートマンが放つ熱に、全身の皮膚が焼けるような痛みを感じた。
「ヒートマン(日野)、木村!これ以上、苦しむな!」
本郷は、まず動きが鈍い木村ヒートマンを狙った。彼は、まず冷却ジェルを充填したカプセルを木村の胸部に叩きつけ、体温を一時的に下げる隙を作った。
ピュッ!
その隙に、本郷は射出ピストルを木村の顔面に向かって発射。錠剤が木村の大きく開いた口腔に正確に吸い込まれた。
タイレノールが作用し始め、木村ヒートマンの炎が急速に収束する。体温が急降下し、木村は普通の人間の姿に戻った。
百:日野への最後のタイレノール
残るは、最高熱で暴走する日野ヒートマンだ。彼は、仲間が人間に戻ったことに気づかず、本郷を目がけて最大の炎を噴射した。
グワアァァァァッ!
本郷は、炎を避けきれず、耐熱ブランケットが焦げる激痛に耐えた。
「くそっ、これ以上は無理だ!」
本郷の体は限界だった。彼は、最後のタイレノール錠剤をピストルに装填した。
その時、炎上するビルの上空に、巨大な光の影が差し込んだ。ウルトラマソが、二体のヒートマンによる異常な熱波を感知し、ついに小山駅近くのオフィスビルに降臨したのだ。
ウルトラマソは、その巨大な手から凍結性の特殊な光線を放ち、日野ヒートマンの周囲に**「冷気のバリア」**を張った。
炎と冷気が衝突し、凄まじい音を立てながら、日野ヒートマンの動きが停止した。
「今だ!」
本郷は、その一瞬のチャンスを逃さず、最後のタイレノールを日野ヒートマンの口へと射ち込んだ。
タイレノールは、ウルトラマソの冷気と相乗効果を生み出し、インフルエンザによる高熱を、瞬時に平熱へと引き戻した。
炎が消え、日野ヒートマンは、意識を失った日野 篤の姿へと戻った。
本郷は、二人のサラリーマンを抱え、崩壊寸前のビルから脱出した。ウルトラマソは、その光でビル全体の火災を鎮火させると、静かに夜空へと消えていった。
本郷 猛の**「科学と意志」による戦いは、再び「市販薬」**という名の勝利を収めたのだった。
インフルエンザと高熱、鼻血、痔、腰痛、そして怒り。すべては人間の**「苦痛」がトリガーとなった変異だった。本郷 猛は、自身が仮面ライダーになれなくても、科学と鎮痛剤によって、人々を苦痛から解放し、英雄を支える真の「裏の観測者」**としての道を確信する。
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