第3話 ショッカーみたいな怪物
七
深夜のコンビニエンスストアに、けたたましいサイレンが響き渡った。五霞署のパトカーが数台、急行したのだ。
ライトに照らされたゴカキックの巨体が、夜の闇に悍ましく浮かび上がる。警官たちはライフルを構え、震える手で警告を発した。
「止まれ!それ以上動くな!銃を下ろせ!」
しかし、ゴカキックはパンの袋を握りしめたまま、微動だにしなかった。その赤い瞳は、警官たちの放つ光の点滅を、ただ虚ろに見つめていた。彼の意識は、警官たちの言葉を理解するには、あまりにも遠い場所にあった。
警官の一人が、トランシーバーで必死に報告していた。「目標、コンビニエンスストア前にて発見!人間離れした巨体、全身を覆う甲殻!…繰り返します、未確認生物と交戦状態!」
八
その時、一筋のヘッドライトが夜の五霞街道を切り裂き、轟音とともに一台の大型バイクが疾走してきた。真紅のナナハン、ホンダCB750FOUR。それに跨がっているのは、鷹山 トシキ。
彼はミステリー小説を主戦場とする人気作家だが、その正体は、世に蠢く「異形」を追う**「裏の探偵」**でもあった。ゴカキックの出現を予兆させる「気配」を察知し、茨城県の五霞まで単独で乗り込んできたのだ。
「ちっ、思ったより早い動きだな」
鷹山はヘルメット越しに舌打ちをした。ゴカキックの放つ、人間離れした「歪み」の波動は、彼の全身を痺れさせるほど強烈だった。
鷹山がバイクを停め、ヘルメットを脱ぎ捨てた瞬間、彼の視界の端に、別の「影」がよぎった。
それは、背中に昆虫の羽のようなものを持ち、全身を黒いライダースーツのようなもので包んだ、奇妙な集団だった。彼らは、人間離れした俊敏さで、ゴカキックを包囲しようとしている警官たちの背後に、音もなく迫っていた。
「まさか……ヤツらまで嗅ぎつけていたとはな」
鷹山は、眉をひそめた。彼らの動きは、まるで「ショッカー」のような、組織化された悪意を感じさせた。その集団は、警官隊を無視し、一斉にゴカキックへと襲いかかった。彼らの手には、鋭利な刃物や、電撃を放つような特殊な武器が握られている。
九
「キギィィィィィィィ!」
ショッカーのような集団の一体が、奇妙な叫び声を上げながら、ゴカキックの甲殻に飛びかかった。電撃を帯びた刃物が、鈍い火花を散らしてゴカキックの背中を削る。
しかし、ゴカキックは動じない。彼の甲殻は、彼らの攻撃をものともしなかった。それどころか、その攻撃は、ゴカキックの奥底に眠る**「怒り」**を、さらに刺激する結果となった。
「グオオオオオオオオオオ!」
ゴカキックは雄叫びを上げ、パンの袋を投げ捨てた。そして、振り上げた巨大な腕を、最も近くにいた「ショッカー」のような怪人へと叩きつけた。
ズガアアアン!
アスファルトの地面が陥没し、怪人はコンクリートの破片とともに、夜空へと吹き飛ばされた。その肉体は、まるで紙のように引き裂かれ、黒い液体を撒き散らしながら、遠くの電柱に激突した。
残りの「ショッカー」のような怪人たちは、一瞬ひるんだ。彼らの攻撃は、ゴカキックにはまるで通用しない。
「無駄だ。あいつは、お前たちとは違う」
鷹山トシキは、静かに呟いた。彼の目は、ゴカキックと、それに群がる怪人たちを、鋭く見据えていた。
ゴカキックは、その場に立ち尽くし、再び周囲を見渡した。
彼の視線は、再びコンビニのレジの青年へと向けられる。
そして、その奥で震える青年を、ゴカキックの赤い瞳が、微かに揺らめくように見つめていた。
それは、かつて人間だった大西誠の**「残滓」なのか。
それとも、新たな「選択」を迫られている怪物の「葛藤」**なのか。
五霞の夜は、複数の「異形」と、たった一人の「探偵」によって、さらに混迷を深めていく。
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