第2話 ゴカキック登場!
小説家の鷹山トシキはAIに尋ねた。
ヒーローに名前をつけて。
承知いたしました。物語の続きと、怪物に名前をつけましょう。
彼の名は、彼を生み出した場所と、その性質から――**「ゴカキック(五霞蹴)」**としましょう。
四
五霞の工場地帯に響き渡った断末魔は、当然のように近隣の住民の耳にも届いた。しかし、その夜の出来事を正確に理解できた者はいなかった。ただ、朝になって工場のシャッターが飴細工のように引き裂かれ、内部の機械が破壊されている光景を見て、誰もが「とんでもない事故、あるいは強盗だ」と震え上がった。しかし、現場に血痕はあっても、鮫島主任の遺体はどこにも見つからなかった。
ゴカキック……かつて大西誠だったその存在は、工場を破壊し尽くした後、夜の闇へと消えていった。彼の心には、もはや人間的な感情の波はなかった。あったのは、背中の一点に集中するような**「存在の圧力」**。そして、その圧力を解放したいという、原始的な衝動だけだった。
ゴカキックは、アスファルトの道路をゆっくりと進んだ。彼の甲殻は、街灯のわずかな光を鈍く反射し、その巨体は、まるで動く建造物のようだった。
彼の脳裏には、まだ「人間だった頃」の断片的な記憶が蘇ることがあった。
スーパーで半額の弁当を漁る姿。
職場で罵倒され、ただ俯くことしかできない自分。
アパートの一室で、冷え切った食事を一人で食べる孤独。
それらの記憶は、ゴカキックの体内で、新たな怒りの燃料として燃え盛った。
五
五霞の街は、のどかな田園風景と新しい物流倉庫群が混在する、典型的な地方都市だった。夜中ともなれば、人通りはほとんどない。
しかし、ゴカキックが目にしたのは、夜のコンビニエンスストアのネオンサインだった。
煌々と輝く明かり。自動ドアの向こうには、たった一人、深夜バイトの青年がレジに立っている。
ゴカキックの記憶が、再び蘇る。
深夜のコンビニは、彼の小さな安らぎの場所だった。誰もが平等に客として扱われる、唯一の空間。しかし、その彼が今、異形の怪物としてそこに立っている。
店のガラス戸は、ゴカキックの巨大な影を反射した。
店内から、レジの青年が怪物の姿に気づいた。青年の顔から血の気が引き、持っていた雑誌を床に落とす。
ゴカキックは、一歩、また一歩とコンビニに近づいた。
その目的は、誰も理解できないだろう。
かつて人間だった大西誠は、**「まともな食事」**に飢えていた。
彼は、深夜のコンビニで売られている、出来合いの弁当やパンをただただ求めていたのかもしれない。
あるいは、人間的な接触を、最後にもう一度だけ望んでいたのかもしれない。
ゴカキックの漆黒の甲殻が、自動ドアのセンサーを遮った。
キィィン……という、自動ドアが開く特徴的な音が、静かな夜の街に響き渡った。
しかし、ドアは、ゴカキックの巨体に合わせて音もなく押し開けられ、ガラスは内部で粉々に砕け散った。
六
コンビニの店内は、ゴカキックの巨大な体で満たされた。
棚に並べられた商品が、彼のわずかな動作で次々と床に散乱していく。
レジの青年は、恐怖で腰が抜け、レジカウンターの陰にうずくまっていた。
ゴカキックは、店内の奥、パンやおにぎりが並べられた棚へと視線を向けた。
彼の内部で、何かが変化していた。
怒りの衝動は依然として強いが、同時に、人間だった頃の**「渇望」**が蘇ってきている。
それは、ただ破壊することだけではない、もっと根源的な、生命としての欲求だった。
ゴカキックは、巨大な手を伸ばし、棚からパンの袋を掴み取った。
ガサガサと音を立てるビニール袋。その中身は、彼の人間だった頃の、ささやかな喜びだった。
しかし、彼の口は、もはやパンを食べる形にはなっていなかった。鋭利な牙が並び、顎は人間には不可能なほど開く。
ゴカキックは、パンを口に近づけた。
その時、サイレンの音が遠くから聞こえてきた。 パトカーだ。
レジの青年が、震える声で叫んだ。
「お、お前……一体、何なんだ!」
ゴカキックは、パンの袋を握りしめたまま、ゆっくりと青年に向き直った。
彼の目は、暗闇の中で、微かに赤く光っていた。
その光は、かつて人間だった者の**「哀しみ」を宿しているようにも、
あるいは、これから始まる「報復」**の意志を宿しているようにも見えた。
五霞の夜は、まだ始まったばかりだった。
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