第15話 身を委ねて
「あ、あの、お姫様……? その、魔法が使えるって、どういう……? それに無意識って……?」
頭の上にいくつもの疑問符を浮かべるミラちゃんに、私は努めて丁寧に説明する。
「正確には、魔法の予兆を無意識に振りまいてるって感じです。……トマスさんから聞いたんですけど、ミラちゃんっていろんなところにお水を汲んで回ってるんですよね?」
「へ? は、はい。その、私が汲むとちょっとだけお水が綺麗だって言われて。上手だねって褒められてからは、ずっと」
そう。私の記憶にあるミラちゃんは大抵バケツを持っていたけれど、それは領民の皆さんがこうして求めているから。今思えばここにヒントがあったわけだ。
「それ、水魔法の【
「……えぇっ!?」
ミラちゃんが思いっきりのけ反って驚きを露わにする。
「わ、わわわわ私にそんなことできるはずないじゃないですか! そ、それに、大体魔法ならもっとちゃんと綺麗になるんじゃないんですか……?」
「それはまだ、ミラちゃんの魔法が上手く外に出て行けてない――出て行き方を知らないからです。……恐らくですけど、自然界の魔力による刺激が極端に少ないせいで、ミラちゃんもほかの領民の皆さんも魔力の吸収や放出が苦手になってるんですよ」
「……吸収……? 放出……? えぇっと……」
例えば、一年を通じて暑さが続く地域に住む住民は汗をかきやすく、反対に年中雪に閉ざされたような地域に住む住民は汗をかきづらくなるらしい。それは人体がその地に適応するための本能であり、だからこそ人間はいろいろな気候に耐えて生活している。
それと同じように、魔力を操作する『魔力神経』や魔力を放出する『魔力穴』が、外界からの魔力による刺激が少ないこの地域だとうまく発達できずに眠っていたっておかしくない。
ミラちゃんの場合は、『魔力穴』が眠っていることで魔法が発動しきれていないはず。だったら起こせばいい。この上なくすっきり目覚められる、私の【目覚まし】で。
私は説明についてこられてなさそうなミラちゃんの手を今一度握り締める。今もなお頭の上の疑問符の数を増やしつつある彼女に、もう手を握られることに反応していられる余裕はないみたい。
そして、心の中で念じた。
――目覚めなさい。
瞬間、手のひらから白銀の輝きが零れ落ちた。
「ふぇっ!? こ、これって、あの時の……!?」
長い前髪の下でミラちゃんが目を見張る気配を感じる中、零れ落ちた光が手のひらを伝ってミラちゃんへと吸い込まれていく。
畑の時と違って見た目に変化はない。でも、ミラちゃんの体の中で魔力が少しずつ動き始めたのが、握ったままの手のひらから伝わる感触で理解できた。
「ふぁ……な、んか……体、むずむずするぅ……」
「大丈夫、もう少しだけ我慢してくださいね……!」
例えるなら、真冬に帰宅してすぐの冷え切った両手をあたたかいお湯に浸したようなむず痒い感覚が、ミラちゃんの全身を襲っているはず。でもここで止めるわけにはいかないから、私はミラちゃんの手を握る力を強めて【目覚まし】を行使し続ける。
そうして小さく身もだえするミラちゃんを励ましながら、【目覚まし】を続けること数分。
「……あ、や、ちょっ、待って、何か、おかしっ」
何故か顔が赤いミラちゃんがわたわたと暴れ始める。どうやらミラちゃんも、体内の魔力の流れを感じ始めたみたい。だったらもう、あと一歩だ。
「大丈夫、そのままその感覚に身を委ねて……」
「み、身をっ……!? ってちがっ、だ、ダメです、その、汚し、ちゃ――」
うーん、ここまで慌ててるのはなんでだろう? 痛かったりするのかな? 思えば人に対して【目覚まし】を使うのって初めてだし、もうちょっと慎重になった方が良かったかな。
……でも 一応手のひら越しに探った感じでは何か不調をきたすような魔力の流れは起きてないんだけどなぁ。なんにしてもここで止めちゃったら意味がないし、痛みを伴う治療を行うお医者さんの気持ちになって【目覚まし】を続けるしかないよね。
「あとちょっと、ちょっとで済みますからね。大丈夫、落ち着いて落ち着いて……」
「お、落ち着くとかじゃなくてぇ――ひゃうんっ!!」
ミラちゃんがひときわ大きな声を上げた直後――ついに、願っていた事象が起こった。
彼女の手のひらから、透き通るような綺麗な水が勢いよく噴き出した。
周りに水場なんてない、リビングの中心で。
それは紛れもなく、ミラちゃんが水魔法の才能を目覚めさせた瞬間。水源に乏しいこの地を救い得る、貴重な力の発現。
そんな、この上なく喜ばしいワンシーンを、
「へぶっ」
……真正面からその水を被った私の情けない声が彩った。
魔法を発動させた余韻からか肩で息をするミラちゃんと、顔中ビシャビシャにした私がしばし、無言で見つめ合う。
そして。
「――はっ!? ごごごごごめんなさい私のせいでこんな汚しちゃってだからダメって言ったのにでも私がちゃんと操作できてればごめんなさいごめんなさいごめんなさいいいいいいいっ!!」
「あぁいやその、全然! これくらい全然大丈夫ですからっ!」
ガタッと大きな音を立てながら立ち上がっていつもの倍近い超高速お辞儀を繰り返し始めたミラちゃんを、私は必死でなだめるのだった。
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