第31話 CM撮影 冬バージョン

 そうこうするうちに、パーティーの準備が整っていった。

 温められたおでんが山盛りになっている。チキンとポテトも山盛り。

 そしてスナック菓子は更にてんこ盛りだ。乗り切らない分はダイニングテーブルに置かれた。

 そして緒方先輩が飲み物を抱えてやってくると、パーティーが始まった。


 まずは清涼飲料水が一人に一本宛で手渡された。

 次々にプシュッという気持ちの良い音がして、気分が上がって行く。屋外での時と違い、楽しさがこの室内に詰まって濃くなっていくような、ワクワク感があった。

「私、大根とがんもどきが欲しい。いいかな」


 最初に井上先輩が言い、今井先輩が、「俺は何でもいい」と言いながら、皿に二つを取り、井上先輩に渡した。


「私は、こんにゃくとジャガイモ頂戴」

 里見先輩もいつものチョイスだ。俺たち五人は互いの好みを知っているので、この宣言は野口さんに向けたものだ。


「野口さんはどれにする?」

 なので、そう声を掛けた。どれも数個ずつあって、別に早い者勝ちというわけではない。

 だけどそう言った途端に、軽く緊張感が漂った。

 えっと思ったが、すぐに消えたので、野口さんに向き直った。


「私は卵とはんぺんをください」


 野口さんが今井先輩から皿を受け取り、俺に向かってニコッと笑った。

 部屋の隅のスタッフ側から、声が漏れて来る。


「あれえ、もう恋愛編に入っているかな。おい、3台で細やかに撮ってくれよ。いい場面一つも逃すな」


 あれえ、はこっちだ。

 どこが恋愛編なんだ。無理やりこじつけ編集する気なのだろうか。


 その後は楽しく時間が経ち、お腹がいっぱいになった辺りで、野口さんが俺を ゲームに誘った。そしてジェンガを取り出す。

 俺たちは二人でダイニングテーブルに移った。


 里見先輩は、テーブル下からごそごそとオセロを取りだし、緒方先輩の腕を掴んで、オセロに付きあわせようとしている。


 緒方先輩は、苦笑しながら里見先輩に向き合い、オセロの準備を始めた。

 その様には大人の余裕が漂い、少し拗ねている里見先輩の兄のようだ。


 ああ、あの二人は兄妹みたいな仲なんだ、と突然腑に落ちた。

 今井先輩と井上先輩がカップルにしか見えなくなったのと同じで、二人の事も兄妹の様にしか見えなくなった。


「野口さん。あの二人、兄妹の様に見えませんか?」

 俺はジェンガを整えながら、野口さんに聞いてみた。


「ん? そうですね。仲のいい幼馴染って感じですよね」

「恋人同士には見えませんか?」

「それは、違うでしょ」


 俺だって二人が付き合っているとは思わない。

 でも知らない人が見れば、カップルに見えるだろうと思っていた。

 そんなのは俺だけなのだろうか。付き合いの浅い野口さんでも、すぐにそうと気付くのに。

 俺が動揺しているのを見て、野口さんは戸惑いながら説明してくれた。


「ええと、だからヒロシ君と里見さんのカップル編でしょ。清潔感が大事な清涼飲料水のCMで、三角関係を扱うはずないでしょ。あの二人のカップル編は、綺麗なモデルを使ったイメージ映像みたいなものだし」


 頭をガツンとやられたような気分だった。


「そうだよね。その通りだ」


 ということは、世間一般もそういうイメージで見ているってことか。

 鈍いのは俺だけ?


 ジェンガを始める前から、俺はもう負けた気分になっていた。

 三回やったけど、もちろんぼろ負けだ。動揺が指先に伝わり、あっけなく山が崩れていく。

 そんな俺に、野口さんが飲み物を持って来てくれた。

 プシュッとキャップが鳴って、一本が俺の前に置かれる。


「ありがとう」と言ってから、ちびちびと飲み始め、はっと気付いた。

 これはこの商品の宣伝だった。

 こんなへたれ顔で飲んでは絵にならない。


 そう思った俺は、無理やりニカッと笑って、ぐっと一口飲んだ。

 野口さんが、思わずという様子で、ブハッと吹き出し、ジェンガを摘み直した。


「もう一回勝負しよっか、ヒロシ君」


 最後の勝負でやっと一勝して戻ると、みんなはオセロで盛り上がっていた。


 今井先輩と井上先輩の勝負は、意外なことに今井先輩の圧勝らしい。今井先輩なら、勝負事も井上先輩に譲りそうな気がしていたので驚いた。


「じゃあ、今度はヒロシと私でやろうか」


 里見先輩が俺を誘ってくる。

 皆に囲まれたままでいいのかなと思い、緒方先輩を見ると、軽くウインクされた。いいみたいだ。

 では、ということで、二人の対戦が始まった。

 そして三戦してぼろ負けした。

 里見先輩強い。むちゃくちゃ強いんじゃないか?


 俺だって、オセロはスマホでやっていて、弱くはないはずなのに、3回とも速攻で負けた。

 じゃあ、何だったら勝てるのだろう。

 ポーカーは無理だ。負けるに決まっている。

 ウノなら運次第か。

「ウノとか……無かったな。じゃあジェンガしましょう」


 お願いし倒して、ジェンガで勝負してもらった。

 もう必死だった。


「みんな、何も言わないでね」と頼んでおいたのに、俺の回だけしきりに笑わせようとしてくる。

 頑張ったのだけど、野口さんの掟破りの変顔で、ついに力尽きた。


 その様子を見て全員で大笑いしている。


「ひどいよ、野口さん。あの顔、仕事に差しつかえない?」

「いいのよ。幅が無いと仕事が広がらないものね」


 はあ……つくづく感心する。


 そう思ったら、野口さんの横に立つ緒方先輩に見られているのに気付いた。珍しく怖い顔をしている。

 慌てた俺は、必死で言い訳をした。


「俺、自分の将来を全く考えていないので、それを既に持っている人には、感心してしまうんです。すみません」


 するとなぜか里見先輩が、怖い顔のまま話し始めた。


「私たちは四人とも、将来の進路を決めているよ。私は薬学部に行くわ。将来、バイオハザードが頻発するだろうから、その対策に関わっていきたいの」


 口が開いてしまった。

 救世主ですか!


 俺にはこの四人の姿の一部しか見えていないようだ。大きすぎる。

 またまた、へこんでしまい、体から力が抜ける。

 そんな俺の肩をそっと掴んで、優しく引き寄せてくれたのは、今井先輩だった。

「おいおい、あんまり後輩をいじめるなよ。まだ一年生だぞ。ヒロシはこれからだよな」


 涙が出そうにうれしくなって、俺は目の前のピンクのスイートピーを抜いて、今井先輩に渡した。


「今井先輩、好きです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る