閑話【マクレガーの手記】より第三章抜粋

《双峰を超え、夜影を纏う》

著:神秘の探究者 ヘリオス・マクレガー


 かの知られざる英雄と遭遇したのは、何の変哲もない真夜中だった──。


 昨今、大陸の3割を占める巨大な大樹海『ウルヴザ大森林』の最奥にあるとされる聖域、【セファリアの泉】に眠っている聖剣を求め、各国の夢追い人は日夜その在処を見つけ出そうと躍起になっているという。


 私も一学者として興味はそそられるのだが…かの大樹海の地形は高低差が激しいだけで無く、壮大な双峰に隔てられ、強く聡い魔獣が跋扈しているという…。私には縁のない場所だ。一応、私にもそれなりの伝手はあるのだが…まぁ世間話はここまでにしておこう。


 さて、本題だ。この国…いや、この大陸には様々な伝説やミステリーが語り継がれてきた。『大侵食』や『ゼーレバランの暴落』、そんで、『空白の500年』。あとは…まぁ、ありきたりな話で言うと『勇者レオニダスの冒険記』。

 そして、今回取り上げる『純白の鴉』。鴉なのに白?と思ったかもしれないが、これにはれっきとした理由がある。


 まず純白と聞いて、君は何を連想する?純粋か?神聖か?それとも始まりか?この一瞬だけでもいくつか連想出来たのではないかと思う。それはどれも正解だ。私の個人的な見解だが、白とは"未だ何者にも染められていない始まりの色"と言えるだろう。ここから見出せるのは希望や未だ見ぬ未来では無いだろうか。


 そして逆に、鴉といえば、大概、不吉の象徴であったり、狡賢い存在であったり、比較的負のイメージが強いのでは無いだろうか。かく言う私もそう感じている。だが、極東では八咫烏の様に、崇められるケースも存在する。まこと興味深いものだ。これらを踏まえてみると、『純白の鴉』とはそこらの鴉とは違い、我々に希望を与えてくれる神の遣いと言えるだろう。まさに人智を越えた英雄的存在である。


 『純白の鴉』は数百年前から語り継がれている一人の暗殺者の物語だ。


 彼は大業を成した"義賊"と言われている。詳しくは分かっていないのだが、かの統一国家が滅びたのち、様々な国が建国されたばかりの頃では、その思想の違いからか、争いが絶えなかったのだと言う。毎日の様に殺人、強盗、強姦などの犯罪が絶えず行われ、治安の悪い日々が続いていた。後に「黎明期」と呼ばれる時代の幕開けだが、長くなる故、此処では語らないでおこう。


 さて、勘が鋭い者は既に気づいたと思うが、そんな最悪の時代を終わらせたのが、かの英雄『純白の鴉』なのだ。


 彼の出自も容姿も真名も目的も、何もかもが謎に包まれており、残っているのは目を疑う程の功績のみ。何を成したのかだけが残り、なぜそれができたのか、どうやって成し遂げたのか──その核心となる情報は一切残されていない。そのあまりの非現実さから、ただの眉唾物なのでは無いかと言う考えが波及し、今ではお伽話としてしか語られていないのである。


 もし、かの者が今も尚、何処かで旅をしているのだとすれば、今も何処かで新たな功績を残しているのだろうか。もし出会う事があろうものなら、何を想い、何を成そうとしているのかぜひ拝聴してみたいものだ。

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