第二節 暗黒の舞踏

 朝の光が、窓から静かに差し込んでいた。


アル

「おはよう……」


そう言って、いつも通り朝の食卓に座ったアルは、ふと、ある“違和感”に気づいた。


——いつもなら、そこに座っているはずの兄の姿が、ない。


レイファ(微笑んで)

「……レオールは、少し用事で出ているのよ」


その声は穏やかだった。

けれど、ほんのわずかに……震えていた。


アル

(どうしたんだろう……?何か悪い事が起きちゃったのかな…)


ルイ

「それよりさっ!俺…この前、騎士の一人から一本取ったんだぜ!?凄くねぇ〜?」


ダグラス(優しく微笑む)

「手加減をしてくれていたからであろう?まぁ、それを抜きにしても騎士から一本を取るとは…良くやったじゃ無いか……。頑張ったな。」


レイファ

「マーサ。お祝い代わりに…何か甘いものをご馳走してあげてちょうだい。」


マーサ「かしこまりました…。」


  ***


アル「お父様〜〜。今日もあの本を読んで〜〜。」


ダグラス

「すまない…アル。今は少し忙しくてな…また今度にしておくれ……。」


アル「分かった〜〜……。」

(お父様が無理ならお母様に……)


アル

「お母様〜〜僕、絵本を読んで欲しくて……。」


レイファ

「ごめんなさいね…。今用事をしている最中なの。ルイやレオと遊んでいなさい……。」


アル「は〜〜〜い……。」

(レオ兄は確か…)


アル「レオ兄〜〜。」


レオ

「どうしたのさ…?もしかして…絵本を読んで欲しかったりするのかい?」


アル「うん!!」


レオ「分かった……。少しだけな…。」


 棚から、いつものアルが好きな絵本を取り出そうとする。


コール

「レオール坊ちゃま!至急こちらに!」


(レオの手が、寸前で本に触れず…止まる)


レオ

「分かった!すぐ行く…。」


レオ(微笑みながら)

「ごめんな…アル。お兄ちゃん急用が出来た見たいだ。他の誰かに頼んでくれ…。」


アル

「は〜い……」


  ***


アル

(やっぱり変だ。みんなどこか忙しそうだし…僕…嫌われちゃったのかな……)


(あっ!ルイ兄だ!!)


アル(思いっきり抱きつく)

「ルイ兄〜〜!!」


ルイ

「うわっ!!……どうしたんだ?アル。

俺…まだ稽古の最中なんだが…。」


「これが終わったらな……。」


──そう言ってルイは兵舎へと向かう…。


アル「……。寂しいなぁ……。」


  ***


──執務室にて……



ダグラス

「今朝の騒動はどうなった?

多少は鎮圧出来たのか?」


コール

「はっ!無事、制圧完了です。」


ダグラス

「そうか、良くやった…。それにしても、小規模とは言え、この時期に予期せぬ魔獣氾濫スタンピードとは……。

 それも、魔獣たちの目が赤く爛(ただ)れていたと聞いたが…。

一体…何が起こっているんだ……?」


ダグラス

(やはりあの魔石が原因か…?

いや、いくら多少…魅了の力があろうと、この様な事は起こらぬはず……嫌な予感がするな…)


コンコンコンッ


レオ

「お父様。少し…良いでしょうか……。」


ダグラス

「入れ。」


「どうした?また何か起きたのか?」


レオ

「いえ、そこまでの事では無いのですが、少々面倒な事になっております…。」


ダグラス

「なんだ?聞かせてみろ…。」


レオ

「既に小耳に挟んでいるやも知れませんが…最近、お父様を陥れようと画策している者が…下町にて、ありもしない噂を立てております…。」


ダグラス

「ああ、聞いている。まったく…その程度で、我が家の評判をどうこう出来るとは思わぬのだがな……。」


レオ

「僕もそう思いますが、打てる手は打っておくべきかと…。」


ダグラス

「それもそうだな…。レオ、頼めるか……?」


レオ

「はい。お任せください。」


  ***


──とある酒場で……


 ざわめき、木のコップのぶつかる音。煙草の煙が、天井に揺れる。


酒に酔う客

「……聞いたかい?あの公爵家の庭で、黒い“魔石”が見つかったって話……」


噂好きの男

「ああ。それも子供が拾ったって噂だ。だがな……“拾った”んじゃない、“置かれてた”んじゃ無いかって噂もあんだよ…。」


酒に酔う客

「そりゃ本当か…?でもよ…何のためにそんなもん置いてったんだ…?」


噂好きの男

「それがどうやらな…?俺の知り合いに、魔石の置いてあった場所に…人影を見たっていう奴がいてな?そいつが言うには………。」


 噂が行き交う酒場の片隅で、一人の女がゆっくりと杯を傾ける。


???

「……ふふ。狂乱は、まだ始まったばかり。さあ……踊って、頂戴ね」


(赤い唇に、不気味な笑みが浮かぶ)


……ふと、酔いどれの一人がそちらを振り向く。

──が、そこにはもう、誰の姿もなかった。


酒に酔う客

「なぁ…さっきあそこに変な女が居なかったか…?」


噂好きの男

「お前、酔いすぎなんじゃ無いか?既に幻覚が見えるぐれぇとはよ…。」


酒に酔う客

「いや、本当にいたはずなんだが……。」


噂好きの男

「気のせいだろ…。」


酒に酔う客

「そうか…?まぁ随分と飲んでるしなぁ……。まあ良いか…気にしないでくれ。」


──そうして二人は…また噂を話し始める。


  ***


(大きな物音……)


アル(目を擦りながら)

(……ん?何だろ……変な音がするなぁ…)


一般兵士

「ダグラス・フォン・イゼルロット公爵様、皇王陛下からの召喚命令が出ております。


──至急、御登城されたし。」


ダグラス

「すまないが、それは出来ない。まったく身に覚えがないものでな……。」


 淡々と、ダグラスは試すようにそう答えた。すると、兵士が一斉に銃を構えた。


ダグラス

「……その銃口が、一体誰を狙っているか…理解しているのか?」


──空気が一瞬にして張り詰める…。


一般兵士

「これは皇命です。拒否する事は出来ません……。諦めて下さい。」


ダグラス

「はぁ…。分かった。だが、少し支度をしたいのでな…時間をくれないか……?」


──兵士は少し考え込むと、こう言った。


一般兵士

「かしこまりました。それでは、後日護送に参ります。」


 その一言を境に、兵士達はみな一斉に身を翻し、帰路につく…。


ダグラス

「本格的に動き始めたか…。これは…一刻の猶予も無いな…。」


──そう言い、ダグラスは一人準備に取り掛かる…。

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