第6話 七人目の犠牲者
シグルド
「おい…エルゴ。殺人鬼の風貌について、知ってる事を教えろ。」
霧が立ち込める皇都の片隅で、シグルドはとある情報屋の女にそう言う。
エルゴ
「なんだ…アンタか。それで?殺人鬼っていやあ、ここ最近…噂になってる事件の事で良いんだな?」
シグルド
「ああ。その通りだ。少し入り用でな…情報を売って欲しい。代金は弾む。」
エルゴ
「"代金"…ねぇ。ここでの"代金"が、ただの金じゃ無いって事…アンタ、知ってるでしょ?」
シグルド
「知っているとも。だからこそ言っている。」
エルゴ
「はいよ…ちょっと待っていなよ。」
そう言って、市政には出回っていない、殺人鬼の人相が書かれた紙を手渡す。
シグルド
「……。なるほど。一応聞いとくが、偽物を売り付けやがったら容赦しねぇからな?」
エルゴ
「はっはっは!!そんな事をして何になる?生産性の欠片も無いだろうに。」
その見た目に反する豪快な笑い方を見せる。
シグルド
「はっ!そうだな。お前はそう言う奴だ。」
エルゴ
「それで?今回の"情報"はまだ安いから良いけど…このまま"大きな情報"まで…取り引きをするとなると、取り返しが付かなくなるわよ?」
シグルド
「分かっているさ。だから、こう言うちょっとしたヒントぐらいしか聞きやしねぇ。」
エルゴ
「懸命だね…。私も、アンタが与えてくれる"代価"のおかげで…色々助かってるし、早々に脱落されると困るんだ。だから、くれぐれも…その命をお大事に…ね?」
シグルド
「ああ。忠告…痛み入る。心に刻んでおくとしよう。」
シグルド
「それじゃっ!俺はもう戻るぞ。まぁ…また今度来る…。」
エルゴ
「はいよ。ゆっくりと待っているわ。」
その言葉に頷くと直ぐに振り返り、シグルドは手を振りながら走り去って行った。
***
王都の暗い路地を、アルセリオとシグルドが並んで歩いている。
シグルド
「とりあえず、張り込みの準備は整ったが…当てが外れてたら恥ずかしいな。」
アルセリオ
「そうだな…。少し…良いか?親父。」
シグルド
「なんだ?神妙な顔をして…」
アルセリオ
「ちょっと…違和感があってな…?この王都の外れに、古びた教会があるだろ…?」
シグルド
「ああ…あのおっかねぇ廃墟か。それがどうした…ってまさか!」
アルセリオ
「ああ。そこに七人目を置けば、少し歪とはいえ、ちょうど七芒星が完成しねぇか?」
シグルド
「おいおい…。俺が気づかなかったのが悪いとはいえ、さっさと言ってくれよ…。」
アルセリオ
「すまん…まぁ、代わりに俺がそっちに向かおう。間違ってる可能性もあるから、分担だ。」
シグルド
「分かった…ここは俺に任せろ。」
アルセリオ
「感謝するぜ?親父。
俺はあっちに向かっとくな!」
シグルド
「おうよ。何かありゃあすぐ伝えろよ。必ず助けに行く。」
互いに背を向けて別れる。月明かりだけが二人を照らしていた…。
***
はぁ…はぁ…
アルセリオ
「やっと…ついたぜ。」
──古びた教会に辿り着く…。
アルセリオ
「それにしても怖ぇな…ここ。さぁ、親父…上手くやってるかね?」
アルセリオ
「とりあえず、中に入ってみるか…。」
ギィィィ………
不気味な音を立てて、朽ちかけた扉が開く…。
アルセリオ
「……寒ぃな…。」
月明かりを吸い込むように、教会の奥は暗い。崩れた長椅子、砕けたステンドグラスの欠片が足元で軋む。
ふと、壁にかつての壁画が朧に残っているのが目に映る。
天使が何かを指さしているが、その先は煤で黒く塗り潰されている。
アルセリオ
「……ここで、何人の人間が…。」
指先で壁をなぞると、古い血のような茶色い染みが爪に付く。
思わず舌打ちして手を払う。
奥に進むと、祭壇跡の前には今も残る鉄製の盃が落ちていた。
月光にわずかに反射し、濡れたように見える。
アルセリオ
「……血か?」
盃に指を近づけようとした瞬間、ポケットの香水瓶がカチャ、と鳴る。
アルセリオ
「……ん?こりゃ確か…変な女に渡されて….断れずに持って帰ってたんだったか?」
ヒュ〜〜……
静かに吹く風によって、冷たい空気が背筋を撫でる。
奥の十字架の残骸に向かって、かすかに蝋燭の炎が揺れたのが見える。
アルセリオ
「……誰だ、そこにいるのは。」
踵を返そうとしたその時…誰もいないはずの教会で…背後から足音が響く。
???
「来て…しまいましたね。探偵殿?」
蝋燭の炎が、誰かの顔を照らし出す。
???
「貴方が踏み入れた、その足音こそ…
この儀式の最後の一手なのですよ…?」
二人はそうして、初の対峙を迎える。
***
一方、シグルドは人影のない王都の小広場の中央に立つ。そこには供物の残骸…香水瓶の様な物が落ちている。
シグルド
「……? 何だ、この匂いは……香水?」
足元には微かに血が滲んだ跡。目線を辿ると、石畳の中心に倒れる影が見える。
シグルド
「――ッ! まさか!」
駆け寄ると、そこには七人目の犠牲者らしき人が倒れている。確認してみるが…既に息はない。近くには…割れた香水瓶と、タロットカードが落ちていた。
シグルド
「…恋人の逆位置…。」
そして…情報屋から手に入れた、殺人鬼の風貌が…その死体と重なる…。
シグルド
「……っ、まさか…これが供物だとしたら…!」
その瞬間、シグルドはハッと顔を上げる。
シグルド
「アルセリオッ!!」
そう言い、彼は振り向いて走り出す。
───────
【幻灯探偵社の記録ノート】
方角 七大罪 供物 タロット
12時 傲慢 鏡 皇帝(逆)
2時 嫉妬 サイコロ 月(逆)
4時 憤怒 ナイフ 塔(正)
6時 怠惰 枯れた花 吊された男(逆)
8時 強欲 金貨の袋 ペンタクルQ(逆)
10時 暴食 肉の残骸 カップの9(逆)
中央 色欲 香水(破損)恋人(逆)
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