第5話 タローの導き

 人混みの中を抜け、死体に近づく…。


中年の巡礼騎士

「貴方方は、幻灯探偵社の方々ですか…。上官から全力でサポートをしろと仰せつかっております。どうぞご自由に。」


シグルド

「あんがとな!おっさん。」


中年の巡礼騎士

「貴方に言われたくはありませんよ!!」


シグルド

「すまんすまん…」


 二人の会話を尻目に、アルセリオは死体を観察する。


アルセリオ

「本当に殺されたのか…読みが外れたな……んっ?これは…」


 アルセリオの視線の先に、一枚のカードが落ちていた。


アルセリオ

「これ確か…タロットカードだったか…?」


 黄色い背景に…九つの杯と水色の布。

 そして、白い服装をした上機嫌な男性が写っている。


シグルド(割り込んで)

「カップの9…それも逆位置か。」


アルセリオ

「意味を知ってんのか?親父。」


シグルド

「知り合いの占い師が使っててな。俺もちっとかじってる。」


アルセリオ

「……。あの、巡礼騎士さん。この現場に他に落ちていた物と、他の現場の物。そして各々の位置を教えてくれないですかね?」


中年の巡礼騎士

「はい…?分かりました…。一応上官に聞いてきます。」


 その場にいた他の騎士に見張を頼み、中年の巡礼騎士は急いで駆けていった。


──しばらくして…


中年の巡礼騎士

「あの…これを。上官が直々にまとめてくださいまして…」


アルセリオ

「ありがとうございます。親父…一旦帰るぞ。」


シグルド

「おうよ。」


アルセリオ

「レオは被害者の人達の家で色々探ってきてくれ!その後は探偵社に戻って、一時の間…ルーを任せたぞ。」


レオナール

「ああ、承った!!」


 二人はレオナールを置いて、探偵社へと帰っていく。


  ***


 帰り道、王都の人混みを抜ける途中…、

 夜の街灯がちらちらと瞬き、探偵社へ急ぐ二人の足取りが交互に鳴る。


シグルド

「……にしても、タロットを使う奴なんざ久々に見たな。」


アルセリオ

「ああ。あれで大体確信した。こりゃ何かの儀式だな。この街を盤にでも見立ててんだろ…」


 アルセリオの顔には疲労の影。無言で前を見据えて歩く。


──ふと、路地の脇に並ぶ小さな露店が目に入る。香油や香水を売る屋台。

 通りに立つ若い女店主が声をかけてきた。


露店の女

「あの…お兄さん方!今夜だけの特別品です。

旅のお守りに、香りはいかがですか?」


シグルド

「ははっ、俺には似合わんな!

アル、お前はどうだ?」


アルセリオ

「むしろ、親父はその加齢臭を誤魔化すのに使えるんじゃ無ぇか?…俺はいらん。」


 立ち去ろうとするアルセリオの腕を、女がそっと取る。


露店の女

「探偵さんですよね?

この街を守ってるんでしょ。

なら、これ…お礼です。」


 女は小さな銀の瓶を差し出す。ほのかに甘く艶やかな香り。


アルセリオ

「……何だこれは。」


露店の女

「本来はかなりお高いもので…疲れた時に、ふっと香れば、気が楽になりますよ。」


 女は柔らかく微笑む。その目は何処か、底の見えない色を宿していた。


アルセリオ

「……分かった。ありがたくもらっておく。」


 断りきれずに、アルセリオは香水瓶を受け取り、ポケットにしまう。


シグルド

「……まぁ、いい土産だな。

で?帰ったらどうする。」


アルセリオ

「戻ってから考える。今回の事件…かなりやべぇ臭いがすんだよな…」


シグルド

「了解。ついてくぜ…リーダー。」


 再び歩き出す二人。その足元にはわずかな甘い香りが残っていた。


  ***


カランカラン……


 二人は台の上に先程もらった地図とメモを置き、じっと見つめる…。


シグルド

「一人目、12時の方角。鏡が残されてて、カードは皇帝の逆位置。

 ガラスに突っ込んで、死因は自損って感じだな。」


アルセリオ

「よく知らねぇが、見ただけでも…皇帝の逆位置って…指導力の欠如とか、支配の崩壊……まぁ傲慢と重なるな。」


シグルド

「概ね正解だぜ。流石だな。」


アルセリオ

「ありがとう…それじゃあ続けるぞ?

二人目は2時。サイコロに月の逆位置。

 見上げたまま、両目をえぐられてた…まるで、何かを見つめたまま…って風に。」


シグルド

「三人目は4時、ナイフと塔の正位置。

 どうやら、爆散したらしい…持ち家は跡形も残って無ぇが、被害者の肉片は辺りに飛び散ってたらしい。」


アルセリオ

「六時の四人目は…枯れた花。吊された男の逆位置。

 自分から動けないまま餓死した…。一見、スラムやらで良くある事に見えるが、肉体に欠損は無ぇ癖に、その場から動いた痕跡が無い。」


シグルド

「五人目が8時。金貨にペンタクルのクイーンの逆位置。

 金に釣られて中へ入ったは良いが、あの量の金貨に埋もれたら……まあ、想像に難くない。」


アルセリオ

「六人目は10時の方角。カップの9、逆位置。

 食い散らかされた肉が周囲に転がってた。生肉を無理矢理食わされて…そのまま、臓物を吐き出したらしい。」


(シグルドの顔が一層渋くなる)


アルセリオ

「……12時、2時、4時、6時、8時、10時……間隔が均等すぎる。」


シグルド

「……まさか、"時計"ってのか?」


アルセリオ

「ああ。東から時計回りだ。発生した時期もちょうどその順番になってる。」


アルセリオ

「それに、ただの時間じゃない。こりゃ“方角”を示してんな。今の所からだけでも、

 六つの死体。六つの象徴。……これは儀式だ。所謂…死による"陣"だよ。」


 その言葉に、シグルドが腑に落ちた様に話し始める。


シグルド

「てことは七大罪だな。上から順に傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食ってなもんだ。」


アルセリオ

「やっぱり、皇帝のやつ以外のタロットカードも、七大罪に似た様な意味を持つ奴だったって事か?」


シグルド

「そうだな。一つ一つにゃあ色んな意味があるんだが…例えば、カップの9の逆位置には、暴飲暴食っつうのも含まれてたりする。他のやつもまぁそんな感じさ。」


アルセリオ

「じゃあ…塔の正位置…衝撃、崩壊、怒り…まさしく爆発、ってとこか」


シグルド

「そうだな。あと、吊された男の逆は…無駄な犠牲とか無力感って意味もあったか」


アルセリオ

「まさか…今回の犯人…、古文書の件にも関わってたりしねぇよな?あの本にこう言う儀式が書いてあったりとかよ。」


シグルド

「盗まれた時期より前から犯行は起こってる。時系列的にあり得ねぇ話だな。

 まぁ…どっちみち、次のターゲットを見つけ出さねぇとなんねぇか…。」


アルセリオ&シグルド

「あとは色欲…」


──二人の声が呼応する。


シグルド

「ベタなのは真ん中だな。儀式の中心としちゃあ最適だ。」


アルセリオ

「だな…とりあえずそこに目星をつけて張り付いておくか?」


シグルド

「試してみるのは悪く無いな。よし、思い立ったら吉日だ。張り込みをして、絶対に突き止めてやる。」


アルセリオ

「ああ。やってやろうぜ?親父。」


シグルド「おう!!」


 二人は拳を突き交わし、その場を後にした。

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